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第三十一章 冒険者ギルド 1.バレン男爵領冒険者ギルド

ヴァザーリの一件が冒険者に与えた影響の話です。本話はバレンの話。

 ヴァザーリでの一件を伝え聞いたバレン男爵領冒険者ギルド――先代勇者の所属先――では、ギルドマスターを中心として、主だった者たちが議論を続けていた。

スケルトンドラゴンの件ももちろん議題に上ったが、話題の中心は生前ここのギルドに所属していた先代勇者のことであった。



「馬鹿勇者の屍体がアンデッドになってヴァザーリを襲ったって(こた)ぁ、襲撃犯とこっちの迷宮は繋がってんですかね?」

「大きな声じゃ言えんが、上の方は、この一連の事件に魔族が絡んでるんじゃないかと疑ってるようだ」

「魔族、ですか。都合のいい言葉ですな」

「だが、一連の襲撃犯にダンジョンマスター、今回は場合によっちゃあネクロマンサーまでが(つる)んでるんだ。共通項として魔族を考えるのはおかしくない」

「責任をおっ(かぶ)せるには都合がよくても、賠償請求の相手としちゃ都合が悪いですからね。あちらさんとしちゃ手頃な請求相手が欲しいわけで」

「だからって、何でウチが(ケツ)を持たなきゃなんねぇんです?」

「まぁ、こっちのダンジョンで先代勇者が死んだからなんでしょうね」

「……公式には先代勇者がどこで死んだのかは確認されておらん」

「公式も何も『(かえ)らずの迷宮』以外に考えられねぇでしょうが。入った跡があって出て来た跡が無ぇんだから」

「足跡の件は公式な報告に上げてない。お前らも口外するんじゃないぞ」

「まぁ、問題の迷宮がこっちに()るからって、うちに賠償請求出すってのも筋違いですよねぇ」

「全く、何を考えてるんだ、ヴァザーリのクソ坊主どもは」



 被害の大きさと信者の不信感に頭を痛めたヴァザーリのヤルタ教会は、教会の再建および当代勇者の治療費などを、あろうことかバレン男爵領の冒険者ギルド宛てに請求してきたのである――さすがにバレン男爵本人に請求するほど血迷ってはいなかったが。

 請求の理由たるや、①アンデッドと化してヴァザーリを襲った先代勇者は、生前バレン男爵領の冒険者ギルドに所属していた。②先代勇者が命を落とした迷宮はバレン男爵領の冒険者ギルドの管轄である。③バレン男爵領の冒険者ギルドが迷宮をしっかり管理していれば、先代勇者が死ぬ事もなく、ましてやその屍体がアンデッド化する事は無かった。④よって、バレン男爵領の冒険者ギルドは先代勇者のアンデッド化に責任を持つべきであり、アンデッドがもたらした被害もギルドが弁済すべきである、という噴飯(ふんぱん)ものの内容であった。



「厳密にはヴァザーリを襲ったアンデッドが先代勇者だとは確認されておらん」

「はぁ? 見ていた連中が山ほどいるんでしょうが?」

「……魔族が人間社会に内乱を起こすつもりなら、ただの屍体(アンデッド)を勇者のそれに見せかけるくらいするだろう。ギルド間あるいは領主間の対立を(あお)る目的でな」

「……よく、そんな言いがかりを思いつけますな」

「でも、あり得ない事じゃありません。その可能性がある事を指摘して……」

「あぁ、やんわりと、相手の術策に乗らないようにと回答してやるつもりだ。ついでに向こうの領主と冒険者ギルドにも同じ内容を伝えた上で、な」


「向こうの因業(いんごう)坊主どもはそれでいいとして……こっちの馬鹿殿様とクソ坊主はどうします?」

「一応伝えてはおくが……やつらだって何もできんだろう」

「領主は代替わりするとの噂ですが?」

「ああ、さすがに今の男爵は不始末が過ぎた。男爵家が取り潰されてもおかしくないからな。その前に首をすげ替えようと画策しているらしい」

「教会の方はどうなんですか」

「例の食糧補給で信頼を繋ぎ止める事には成功したようだがな、今度の賠償請求の一件を黙って見過ごすようじゃ、その信頼も再び揺らぎかねん。向こうの教会宛に苦情を言うぐらいはするかもな」



 バレンとヴァザーリ、ともに亜人排斥派が優勢な町ではあったが、両者の関係が特に友好的であったわけではない。そして今、両者の関係は、更に悪化する方向へと進み出していた。


 クロウの行動は、それまで結束していた亜人排斥派、およびヤルタ教徒の間に、無視できない(くさび)を打ちこんだのである。

もう一話投稿します。

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