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第二百二十四章 混沌、イスラファン 25.クロウ

 自分の(あずか)り知らぬところで新型帆船を建造する動機となっていた――などとは夢にも思わぬクロウであったが、船大工消失の一件を精霊からの報告で知るに及んで、



『幽霊船か……どうやらアンシーンが目撃されていたようだな……』

『海の上で出たり消えたりを繰り返しておれば、不審がられもするじゃろうよ』



 爺さまの皮肉をさらりと聞き流して、クロウは現状の検討に集中する。取り敢えず問題とすべき点は二つ。



『第一は、姿を消したという船大工はその後どうなったのか。また、どこの勢力がそれに関与しているのか。そして第二は、アンシーンを模したクリッパー型の船が完成したとして、それが俺たちにどう影響するか』

『新型船の影響の方が後回しなの? クロウ』



 どう考えても自分たちに関係するのはそっちの方だろう――と言いたげなシャノアの問いに、クロウが答える。



『そっちは(そもそも)、技術開発に携わったという船大工が健在という前提が必要だからな。船大工の消息を検討するのが先だ』

『成る程……そういう事ね』

『納得できたら検討に移るぞ、シャノア。精霊からの報告をもう少し詳しく話してくれ』

『うん、あのね……』



 精霊が訊き込んできた噂というのは、概ねヤルタ教の密偵が耳にしたのと同じ内容であった。ただ、現在ではかなりの範囲に噂が拡がっているようなのと……



『――モルファン? どこからそんな話が飛び出してきた?』



 船大工が引っ越した(・・・・・)というからには、リクルートされた先がシュライフェン(こ こ)の領主や商人でないのはほぼ確実。船大工は船を造るのが仕事なのだから、向かった先も沿岸国という事になるが、



『しかし、それだけではモルファンと特定はできんだろう? イスラファンの他の港町、例えばレンツやハデンという事も考えられるし、アムルファンやヴォルダバンの可能性も否定できんぞ?』

『防寒用の外套(コート)とかを買い込んでたんだって』

『……成る程……モルファンが疑われる理由にはなるな』



 シュライフェンより寒い場所、つまりここより北と言えば、モルファンより他に無いのだから、これは納得できる結論である。少なくとも船大工本人は、モルファンへ行くつもりだったと考えてよさそうだ。あとは真実モルファンへ向かったか、或いはそう見せかけて殺したか、別の場所へと拉致したか。



『下手にモルファンを巻き込んだ場合、デメリットの方が大きいだろう。余計な小芝居をする必要は無い。ここはモルファンに雇われたと、素直に解釈するのが妥当だな』

『口封じっていう可能性は? 無いんですか? マスター』

『モルファンが口封じするのなら、もう少し巧くやるんじゃないのか? それに第一』

『第一?』

『船大工が死んじまってるんなら、俺たちに関わってくる事は無い。健在とみて対応を考えるべきだろう』

『成~る程ぉ』



 キーンを納得させたところで、この問題について考えるクロウ。先端技術の流出という事は、通常なら優位の喪失という事に結び付くのだろうが……アンシーンの場合、その心配は無用である。何しろアンシーンの優秀性は、クリッパーという船型に拠るだけでなく、ダンジョンである事に拠る部分が大きい。競合など考えるだけ無駄である。

 自分たちへの影響は心配無いかと安堵しかけたところで、クロウは一つの問題に気が付いた。



『……アンシーンの姿――と言うか、クリッパーという船型――が広く知られると、オッドたちを上陸させるのが面倒になったりはしないか?』



 オッドたちの上陸にはアンシーンを使うのだろうと、クロウは何となく思っていたので、その予定が狂うのは(まず)いのではないかと判断。オッドとアンシーン、ついでに軍事作戦にも造詣(ぞうけい)の深いクリスマスシティー――元・クリーブランド級巡洋艦――にも念話を(つな)いで確認したところ、



『『『何の問題もありません』』』



 ――という答えが返って来た。



『既存の船型、例えばガレオン船などに擬装する事は、自分の能力的には一応可能です。ただし、その必要があるかどうか』

『異国の商人を詐称すると言っても、まさか船一隻を丸ごと仕立てて乗り込むような真似はできませんし、その場合、他の乗客はどうするのかという話になります。他の皆さん(アンデッド)に乗客の振りをしてもらうにしても、事が大きくなり過ぎます』

『こういうケースでは、船の乗客とすり替わるというのが定番です』



 ふむ――とクロウは考える。

 適当な船に忍び込むのは、隠蔽と飛行の能力を使えば問題無い。何ならターゲットの船自体を、一時的にダンジョン化するという荒業も使える。すり替わりの実行に問題は無いとしても、本来の乗客を殺すというのは……



(いや……別に殺す必要は無いか……?)



 前後の記憶を曖昧にして、陸地に送り出してやればいい。どうせこの世界には、入国査証(ビザ)も検疫も無いのだ。手間が省けて(かえ)って喜ばれるかもしれないではないか。


 つまり――



『少なくとも現時点では、特に面倒な事態を危惧(きぐ)する必要は無いようだな』

これにて本章は終幕です。長々とお付き合いを戴いてありがとうございました。次回からは再びクロウたちの迷走が始まります。

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