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第二百二十四章 混沌、イスラファン 23.ヤシュリクの一画~商人たち~(その2)

 自分たちを()け者にして、モルファンが大きな大きなパイを独占しようとしているのではないかという懸念が、一気に全員の心を覆う。……が、とんでもない誤解である。


 まぁ、(くだん)の船大工をモルファンがリクルートしたのは事実であるが、そこにはイラストリアもノンヒュームも関わっていない。第一、アンシーンが隔絶した性能を誇っているのはダンジョンだからであって、船型の寄与するところは多くない。……いやまぁ確かに、クリッパーという形式が新奇で有用なものであるのは事実だが。

 だが、商人たちの想像の翼は、更にあらぬところにまで広がっていく。



「いや……我乍(われなが)ら嫌な想像だが、自分たちの情報を高く売り付けようとしたノンヒュームが、船大工の口を封じたとも……」

「モルファンはそこまで間抜けではないだろう。その前に身柄を確保している筈だ」

「うむ。それにノンヒュームたちが、そこまで過激な行動に出るとも思えん。彼らがそこまで焦ってモルファンを取り込もうとする理由が無い」

「テオドラムと雌雄を決する事を決めた可能性は?」

「……だとしても拙速に過ぎるだろう。自らの焦りをモルファンに示したようなものだ。これまでのノンヒュームたちの手際を見る限り、そんな下手を打つ相手とも思えん」



 過激な想像には歯止めがかけられたが、それは逆に、モルファンがノンヒュームたちと新型船の情報を取引したのは既定の事実――という印象を固める事になった。根も葉も無い誤解であるにも(かか)わらず。



「……この件だが……イスラファン(う ち)の商業ギルドも勘付いているのか?」

「……どうかな。知ってのとおり商業ギルドを(ぎゅう)()っているのはザイフェル老だが、あの()(じん)はどちらかと言えば、(おか)での物流に目が行きがちだからな」

「新型船の事は軽視している可能性も高いか……」



 だとすると、ここは自分たちだけで動くのが得策か? パイを分け合うのは少人数の方が良いし。



(そもそも)だ、どうもザイフェル老には強引で強硬なところがある。その()(くち)が、ノンヒュームなりイラストリアなりの機嫌を損ねた可能性も無視できまい」

「……彼らが不快感を抱いていると?」

「可能性はあるだろう。このところイスラファン(う ち)の商業ギルドがイラストリア相手にどう出てきたかを見てみろ」

「うむ……」

(いささ)か高飛車に過ぎたかもしれんな……」

「イラストリアにしてみれば、砂糖に酒までノンヒュームから調達できるのだ。沿岸国への依存度が低下したとしてもおかしくあるまい?」



 ここに(つど)う彼らにしてみれば、問題にしたいのは飽くまでノンヒュームの方である。しかし、その後ろ盾になっているイラストリアの機嫌を損ねては元も子も無いのも事実なのであった。


 イスラファン王国が商業ギルドに情報を渡さなかった事も併せて考えると、この件ではイスラファン王国と商業ギルドとの間にも隙間風が吹いているようだ。



「……今にして思えば、ラージンの動きも(まず)かったかもしれんな」

「ラージン?」

「彼が何かしたか?」

「忘れたのか? ワタガシの製造方法を手に入れようとして、ノンヒュームたちの動きを探った事があったろう」

「あ……」

「あれが彼らの警戒心を(あお)った可能性も……無いとは言えんか……」



 う~んと沈痛な表情を隠さない一同。これはどうも好くない状況ではないのか?



「……この際だから確認しておきたいが……我々は商人だ。モルファンに喧嘩を売るのは商人の()(くち)ではない。それはいいな?」



 唐突に何を言い出すのかという顔付きの一同を見回すと、口火を切った商人は更に言葉を続ける。



「……今の商業ギルドに諾々(だくだく)と従っていていいのか? 我々はイスラファンの民である以前に(・・・)、商人ではないのか?」



 ――沈黙のみがその部屋を支配していた。

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