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第二百二十四章 混沌、イスラファン 20.シュライフェンからの報告~ハラド助祭の迷走 第二幕~(その1)

「これは……読みが当たったと言うべきなのか?」



 部下からの報告を前にして、ヤルタ教における諜報部・兼・暗部の責任者の一人であるハラド助祭は、複雑な表情を浮かべていた。


 ベジン村に端を発する一連の怪異を、イスラファン南東部に注意を引き付けておくための陽動ではないかと疑い、ならば地理的に対極の位置にある北西部の港町シュライフェンが怪しいのではないかと――当てずっぽうで――睨んで、ものは試しと探らせてみたところが……予想外の話が引っかかってきたのである。



「……『幽霊船』を模した新型帆船の試作……か」



 助祭としては「バトラの使徒」のアジトか何かが――上手くすれば――見つかるのではないかと期待していたが、案に相違して実際に拾い出されてきたのは、何とも判断に困るようなネタだった。果たしてこれは本命なのか?


 まずは、この新型帆船に「バトラの使徒」どもが関わっているかどうかだが、



「……ここまでの推論の流れに誤りは無い……筈だ」



 バトラの使徒の動きを探ってシュライフェンに来たら、そこで怪しげな話にぶち当たった。使徒と無関係だとは思えない。

 しかもこのネタを探ろうとしたところで、肝心の生き証人が姿を(くら)ました。使徒どもが動いたせいでなくて何だと言うのだ



「……そうなると、気になるのは使徒どもの狙いだが……手懸かりになりそうなのは、問題の船大工が姿を消したという事、それ自体か……」



 船大工の失踪に「バトラの使徒」が関わっているという前提で推論を進めているハラド助祭だが……真相は、違う。


 実は、シュライフェンの船大工が「幽霊船」に興味を抱き、それを参考にした新型の帆船を造ろうと(もく)()んでいた事は、早い時期にモルファンの知るところとなっていた。

 モルファン上層部はこの件に興味を抱いたものの、さすがにイスラファン王国を差し置いて交渉に乗り出すのは体裁(ていさい)が悪いという判断の(もと)に、接触を控えていたのであった。

 しかし、肝心のイスラファン王国がいっかな接触を持とうとしない事から、それなら自分たちが交渉しても文句は言われないだろうと接触を試みていた矢先に……あろう事か、どこかの密偵らしき者が船大工に接触したではないか。

 どこのどん畜生かは判らんが、脇から()(さら)われるのは業腹(ごうはら)だ――とばかりに、一気に船大工とコンタクトを取り、リクルートに成功したというのが真相である。


 しかし……そんな事実を知らぬままに、「バトラの使徒」という予断の(もと)にこの一件を眺めてみると……



「……(くだん)の船大工が姿を消したのは、本人の意志によるものかどうか。まずはそこから考えてみるか……」



 助祭が思うに、船大工が姿を消した事には、二つの説明が付けられるだろう。



1.何者かが船大工を拉致、もしくは同意の(もと)に連れ去った。

2.船大工は何者かの手によって殺され、屍体も処分された。



 前者の場合は何者かが新型帆船を欲したという事であり、後者の場合は新型帆船の情報が漏れるのを危惧(きぐ)して口を封じたという事になる。

 助祭の(もと)に寄せられた報告によると、船大工は〝良い仕事先が見つかった〟と言い残して姿を消したそうだが……?



「……あまりにも(わざ)とらしくないか?」



 これが何者かの手によるミスリードだとしたら、実際にはもう船大工は生きていない。つまり、黒幕の狙いは口封じという事になる。しかしそれなら……



「……もっと早い時期に口を封じておかなかったのは、なぜだ?」

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