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第二百二十四章 混沌、イスラファン 19.シュライフェン~ヤルタ教の密偵~【地図あり】

 イスラファン北西の港町シュライフェン。百鬼夜行騒ぎのあった場所からは丁度対極に位置するこの港町こそが「バトラの使徒」の隠れ家ではないか……と、ハラド助祭が疑いを抱いた経緯については既に述べたが、



(イスラファン南の街道筋でダンジョン騒ぎが起きた結果、北部のシュライフェンは完全に意識の外に置かれる事になった。……「バトラの使徒」……何者かは知らんが、見事な手並みだ……)



 ――と、概ねこのようなものであった。

 一言で云えば考え過ぎである。


 さてこのシュライフェンという港町、ハラド助祭の思いこみが原因でややこしい事態が巻き起こる舞台となるのだが……その位置関係を見てみると、アムルファンのカファからモルファンのズーゲンハウンを結ぶような形で、イスラファンの沿岸都市を結ぶ街道上にある事が判る。


挿絵(By みてみん)


 その一方で、シュライフェンからイラストリアへ直接向かう街道は無い。ただ……シュライフェンから東に進むと、「赤い崖(ロトクリフ)」に出て、そこからイラストリアとモルファンの国境付近へ抜ける間道があるが、逆に言えばその程度である。

 これを端的に言うならば、クロウ一味が巻き起こしているあれこれの騒ぎからは遠く離れた、平和な港町の筈であった(・・・)


 その平和な港町が一転して、誤解と陰謀と困惑の交錯する舞台となったのは……先程も言ったように、その直接の原因はハラド助祭にある。

 しかし――更に古くまで遡れば、その遠因はやはりクロウにあった。何の事かと言えば、アンシーンの幽霊船騒ぎである。


 クロウが古酒その他をサルベージするに当たっては、ステルス能力に秀でたアンシーンを主として運用していたが、その隠蔽能力の発動や解除の瞬間を、或いは――船にあるまじき――離水や着水の瞬間を、遠間から(かい)()()られた事が何度かあった。突如として見慣れぬ形の船が現れたり消えたり、或いはそれに(みず)飛沫(しぶき)が伴ったり、端から見れば(れっき)とした怪談である。

 勢い、その怪談の主役となる船にも注意が行く訳で、その見慣れぬ船型とともに快速性能が船乗りたちの注意を引く事になっていた。


 そんな注意を引かれた中に一人の船大工がおり、アンシーンと同じような船型の船を建造しようと(もく)()んだ事については既に述べた。

 そして……その船大工が住んでいる町こそが、ここシュライフェンなのであった。


 ちなみに、カイトたち巡察隊の一行も(かつ)てこの町を訪れてはいるのだが、「幽霊船」の建造を(ひょう)(ぼう)する船大工の噂が巷間(こうかん)流布(るふ)するようになったのは、丁度カイトたちがこの町を立ち去った後の事であったため、彼らはこのネタを拾いそびれていた。


 しかし――ハラド助祭が送り込んだ密偵は、余程に有能なのか幸運なのか、その噂の主が酒場で管を巻いている現場に丁度行き会わせたのであった。



「ほお……『幽霊船』を模した新式の帆船ねぇ……ま、一杯」

「おぉ、すまねぇな。……ったくよ、船主どもめ、今まで見た事が無ぇ船だってんで(こぞ)って尻込みしやがって……」

「模型には感心しても、実際に建造しようと申し出てくる者はいない――と?」

「あぁ。こちとら()(しん)惨憺(さんたん)して、どうにか模型を造るところまではいったんだ。後は実際に建造してみて、具合不具合を洗い出すだけだってのによ……」



 船主たちの弱腰を罵る船大工であったが、(はた)で聴いている密偵には、それも無理ない事かとも思えた。要は海のものとも山のものともつかぬ実験船を造れという事なのだからして、実利を追求する船主たちの腰が重くなるのも無理はない。これは船主ではなく、国に話を持って行くべき案件ではないのか?


 ともあれ、上手い具合に話を訊き出した密偵は、その一件をヤシュリクのハラド助祭に報告した。


 ……そして後日、もう少し詳しい話を訊くようにと指示を受けたその密偵が(くだん)の船大工を探したところ、



「……え? 引っ越した?」

「そうなんだよ。急な話でねぇ……あたしらもビックリしてんだけどさ」

「何でも〝良い仕事先が見つかった〟――って、言ってたけどねぇ……」



 近所のおかみさん連中から、船大工が姿を消した事を聞かされたのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「船喰み島」に船大工が行って、 卜レー氵ーアイランド化してしてないかな? [一言] そろそろ時系列が分かりにくくなってきた。
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