第三十章 亜人たちの村 2.シルヴァの森のエルフ村
シルヴァの森のエルフたちにクロウがどう思われているのか。今回はその話です。
何だかんだでそれなりにクロウとの付き合いに馴染んできた、シルヴァの森のエルフたち。彼らのもとにもヴァザーリでの騒ぎは伝えられていたが、エルフたちの反応は――無論驚いてはいるのだが――獣人たちとはいささか趣が異なっていた。
「聖気を纏って光り輝くスケルトンねぇ……」
「まぁ、あの精霊術師殿にしては穏便なのではないか?」
「そうだな。今回は死傷者もほとんど出なかったようだし」
エルフたちの間でのクロウの評価が察せられるようなコメントである。
「俺はむしろアンデッドの勇者の方が気になるんだが」
「あぁ、先代勇者はダンジョン内で死んだということだが、してみると精霊術師殿はダンジョンに何らかの手蔓をお持ちらしいな」
「案外、ダンジョンマスターに頼まれて、ダンジョンを造ってたりしてな」
エルフたちはどっと笑う。「んなわけ無ぇだろ~」という声も聞こえるが、実は半分ほど当たっている。ダンジョンを設計したのはクロウである。
皆が談笑している中、一人の男が何か考え込んだようにしていた。バンザというその男――クロウからの買い取り品を巡って、先日幼馴染みのエルナという女性とあわや掴み合いをしそうになった男――は、妙な顔をしつつ爆弾を投げ込んだ。
「なぁ、その勇者のアンデッドだが、ダンジョンからしか得られんのか?」
「勇者をドロップ品扱いかよ……。ダンジョン内で死んだって事だから、他の場所にゃ屍体が無ぇだろ?」
「いやな、禁忌の死霊術って言うくらいだから、呼び出した勇者の霊魂か何かを別の屍体に乗り移らせて……なんてのは無理か?」
あまりと言えばあまりな発想に、ホルンも含めた面々が凍り付く。
「そんな事……いや、あり得るのか? あの精霊術師殿なら……」
「霊魂を呼ぶ事――降霊って言ったか?――はできた筈だよな。なら……」
「どうなんだ? ホルン」
「俺は死霊術には詳しくないが……どうだろうな? 何しろあの精霊使い様のことだからな……」
「わざわざ『禁忌の』と強調なさったんだろ? なら、バンザの言うとおりの事ぐらいなさっていても不思議じゃないよな……」
クロウが色々とやらかしているのを知っているため、真っ当な方法でアンデッドを得たとは思えなくなってくるエルフたち。
クロウに対する信頼と評価は、妙な方向で固定しつつあった。
・・・・・・・・
後日、この時の会話を精霊経由で爺さまから聞き込んだクロウが、(呼び出した霊を取り憑かせる事ができるか)試してみたらできたというのはここだけの話。
エルフたちが示した斜め上の信頼が、クロウの更なる成長を促し、そして、自重を更に捨て去る結果をもたらした。
明日は冒険者への影響になります。




