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第三十章 亜人たちの村 1.エドラの獣人村

ヴァザーリの一件が亜人たちにどのような影響をもたらしたのか。本章はその話になります。

 ヴァザーリに潜入していた獣人の物見が持ち帰った知らせが村人の間に引き起こしたのは、混乱と興奮、次いで交歓、そして最後に困惑であった。


「ヴァザーリの町に引き返した侵略者どもが、町に降臨(・・)したアンデッドとスケルトンドラゴンに倒された?」

「アンデッドとスケルトンドラゴンはまだ解るが、降臨(・・)したというのは一体どういう意味だ? 出現の言い間違いではないのか?」



 困惑するのも無理はない。アンデッドとかスケルトンと言えば普通は魔物・モンスターのカテゴリーに入る。神が出現する事を指す「降臨(・・)」という語句とは馴染まないのが普通である。しかし先日ヴァザーリの町で起きた騒動は、普通とは遙かにかけ離れたところにあった。



「不審に思うのも無理はないが、降臨(・・)で合ってる。何しろそのスケルトンドラゴンは、水晶のような身体に輝く光を(まと)って現れたのだからな」

「はぁ!?」



 ほとんど全ての村人の声が綺麗に重なったのも、無理からぬ事であったろう。



「待て、そのクリスタルドラゴンだかスケルトンドラゴンだかは、一体どこからやって来た? 例の精霊術師殿が何とかする手筈ではなかったのか?」

「シルヴァの森のエルフはそう言っていた。策を講じるから手出しはするなと」

「何でも、精霊術師殿は禁忌の術……死霊術を使うと(おっしゃ)ったとか」

「と言う事は、アンデッドもスケルトンドラゴンも精霊術師殿の仕業か?」

「アンデッドはともかく、お前が言うような麗々しいスケルトンドラゴンの事など、これまでに聞いた事がないぞ?」



 困惑した声が重なる。しかし、いくら追求されたところで、物見の男にも解らないものは解らない。潜入中に見聞きした事を話すだけだ。



「町の人間どもは、あのドラゴンの事を神の使いだと噂していた。神の使いがヤルタ教の坊主どもを罰するために顕現(けんげん)したのだと」


「神の使い!? モンスターではないのか?」

「精霊術師殿が死霊術で使役しているのではなかったのか?」

「精霊術師殿が神の使いを使役?」

「……あの御仁(ごじん)ならやりそうだな……」

「精霊術師殿は人間じゃなかったのか?」

「待て、そもそもなんで人間どもは神の使いだなどと言い出した?」

「見かけもそうだが……聖魔法の気を(まと)っているとか言っていた」

「聖魔法!? スケルトンが?」

「死霊術と聖魔法は、水と油のように相性が悪い筈だろう?」



 混乱する獣人たちを、リーダーらしき男が落ち着かせる。



「皆、静まれ! ドラゴンの話は後回しだ。人間どもは村を襲うのを諦めたのか?」



 リーダーの言葉に全員が我に返る。確かに、今現在最も重要なのはその一点だ。ドラゴンの正体などは、後でじっくり議論すればいい。物見の男も本来の役目を思い出し、探った事を話してゆく。



「あ、ああ。何しろ村を攻める筈だった連中が軒並みやられたからな、勇者のアンデッドとやりあって……」

「勇者のアンデッド!?」

「それは後だ! 領主軍が動く気配はないのだな?」

「ああ、もともとエドラの村侵攻はクソ坊主どもが言い出した事だしな。領主は静観の構えだったし、今もその態度を崩さん。(もっと)も、町中が大騒ぎで領主は混乱を鎮めるために躍起(やっき)になってるから、そこまで手が回らんというのが本音だろうが」

「クソ坊主どもの様子は?」

「混乱……と言うより呆然としてる。頼みの勇者はガタガタだしな。他の人間どもも動く様子はない。何が起きたか解らずに警戒してる様子だったな」


「……そうか。では、さっき言いかけた『勇者のアンデッド』とは何だ?」

「ああ、そもそも勇者と言っても、クソ坊主どもが勝手にそう言ってるだけだ。アンデッドとなって町を襲ったのは、モローのダンジョンで死んだ筈の先代勇者の一行らしい」

「ふむ……精霊術師殿はダンジョンと何らかの繋がりがあるという訳か……」

「あるいは、先代勇者が命を落としたのはダンジョンの外だったか、だな」



 考え込んだリーダーの男に、今度は長老らしい老人が強い口調で声をかける。



「オダムよ、要らざる詮索は止めよ。精霊術師殿は、エルフの村に続いて、この村を人間どもから護って下さった。我らが知っておくべきはそれだけじゃ。余計な事を()(まわ)るのは人間どものすることじゃぞ」


 反論を許さぬ強い口調に、オダムと呼ばれたリーダーの男も、物見の男も村人も、ばつが悪そうに顔を伏せる。



「恥ずかしい真似をお見せしました。恩人の事を詮索するなど、誇り高きエドラの一族にあるまじき振る舞いでございました」



 オダムの謝罪に引き続いて、他の皆も次々に詫びの言葉を口にする。



「同胞を解放する手助けに加えて、村まで護って戴いたのじゃ。エドラの者は精霊術師殿に大きな恩を受けた事を忘れるでないぞ」


もう一話はエルフたちの話です。

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