第二百二十三章 泥縄道路騒動 10.イラストリア王城・国王執務室(その3)
明けましておめでとうございます。今年も「従魔~」をよろしくお願いします。
後はルートの問題になるが、
「距離的にもそこまで遠廻りじゃねぇしな……」
「モルファンの側も、寧ろ興味を示すやもしれん」
「一応は留学という名目らしいからな」
「先方の意見を確認する事になるでしょうが、その際にこちらの道路事情を説明して、先方の希望を確認すればいいでしょう。シャルド脇のルートなら整備する用意はあると言って」
最終的には外務卿の判断を仰ぐ必要はあるでしょうがと言って、ウォーレン卿は発言を終える。自分に科せられたノルマは果たした。後は国務会議の判断次第。
「……ウォーレン、ひょっとしてさっきの与太噺は、財務のお偉方を脅すためのネタって訳か?」
「まさか。自分は幾つかの思い付きを披露したに過ぎません。それをどう使われるかは、宰相閣下や陛下のお気持ち次第でしょう」
「……食えねぇ野郎だ……」
ウォーレン卿の献策を採用する方向で意見が纏まったところで、次なる問題は期日である。果たして雪解けまでに間に合うか。
「遺跡の件が表沙汰になった段階で、シャルドへの道は整備し直しましたからな。第五中隊だけでなく、大勢の作業人員を運ぶために」
「ふむ……実用上は問題無いという事か?」
「お粧しって点じゃ物足りねぇかもしれませんがね。ま、何しろ場所が遺跡ってんだから、向こうさんもそこまで綺麗な街道は期待しねぇでしょう」
「家屋や木蔭が疎らな分だけ、監視の目が届き易いという事もあります」
その反面で、テロリストが見物人に紛れ込むという懸念もあるのだが、人員整理の名目に紛れて護衛要員を増やして対応する事も、シャルドであればできるだろう。
とは言え――
「ふむ……モルファンから視察の人員を送ってもらう必要があろうな」
「それに先だって我が国でも、路面の状態を確認しておいた方が良いと思いますが」
ウォーレン卿の提言を聞いたローバー将軍は、ふと何かを思い付いたような表情を浮かべる。
「……イシャライア、何ぞ悪巧みでも思い付いたような顔じゃの?」
「悪巧みはあんまりですな。こういう下検分に打って付けの人材がいる事を思い出しただけですぜ?」
「打って付けの人材?」
そんな都合の好い人材がいただろうか? 有能な人材ならそれなりに記憶にある筈だが?
「宰相閣下もご存知のやつですぜ? 事故るべき場所がありゃ必ず事故るって、稀有な才能の持ち主でね」
「――ボリスの小僧か!?」
ローバー将軍の甥にして、第一大隊第五中隊歩兵第二小隊長を務めるボリス・カーロック。トラブルの神に愛されてでもいるのか、あり得ない頻度で大小のアクシデントに見舞われながらも決して深刻な事態に遭わないという、稀有な才能を持つ人材。
「あやつに任せるというのか……」
「大丈夫なのか?」
ローバー将軍の甥という続柄から、宰相や国王もその〝才能〟の事は知っていた。
「本番じゃおっかなくって使えませんがね、こういう事前調査にゃ持って来いでしょうよ」
――斯くして、トラブルの申し子ボリス・カーロックの登板が決定したのであった。




