第二百二十三章 泥縄道路騒動 4.グーテンベルグ城趾(その2)
〝怪異の仕掛け人〟たる偉大なるクロウが、伝説の地赤い崖を訪れる。これだけお膳立てが揃っておいて、何も起こらない筈があろうか。
好奇心の塊となった精霊たちは、何が何でも蹤いて行きたいと嘆願――クロウに言わせると、集団の力を背景にした恫喝外交――を繰り返し、どうにか随伴許可をもぎ取った……という次第なのであった。
まぁクロウとしても、蹤いて来たからにはただ遊ばせておくつもりは毛頭無いわけで――
『よーし。シャノア、お前たち闇精霊は怨霊と会話できたよな?』
実際にトーレンハイメル城館跡では、怨霊との交渉を分担しようとしてくれていたし。……あの時は、話の通じる相手がいなかったが、交渉ができるという以上は、その存在を感知する事もできる筈だ。
『う、うん。できるのはできるけど……』
『だったら他の闇精霊たちと手分けして、ここに死霊がいるかどうか探してくれ』
死霊術の使えるネスを呼び出す手もあるし、自分の【仮想ダンジョン】で探してもいいのだが、折角蹤いて来た精霊たちを遊ばせておく手は無い。ここは精々役立ってもらおうではないか。
シャノアを通してクロウから依頼を受けた闇精霊たちは、嬉々として捜索任務に就いたのであった。彼らにしてみれば「隠れん坊」遊びと大差無い。
――そうして探す事三十分、
『クロウ、ここには死霊とかはいないみたいよ』
『ふむ?』
城一つ城下町一つが生き埋めになるという惨事の現場に、怨霊の一体も残っていないというのは?
『それなんだけど……あまりに早く死が訪れたんで、怨みとか心残りを抱く暇も無かったんじゃないか――って』
……そんな事があるのだろうか? ラノベ的展開としては、自分が死んだ事に気付かずに彷徨っている――というのが定番なのだが……いや……その場合は地上に出るという発想が出て来ないのか?
暫し考え込んだクロウであったが、闇精霊たちが確認した事実は動かない。なら、今は無駄な詮索などしている暇は無い。
『よし、なら次だ。土精霊たちに頼んで、地面の下に何か……城とか町とか埋まっていないか、調べさせてくれ。あぁ、できるのなら他の精霊たちにもな』
『解った!』
クロウ的には大本命は土精霊であろうと考えていたが……他の精霊たちもそれぞれに工夫を凝らして地中探査に当たっていた。
木精霊が根の張り具合から地中の空洞を探るくらいはクロウも想像していたが、水精霊が水分の分布、火精霊が熱分布の点から不連続域を探ろうとするとは……況して風精霊が、地中の空気や地面の震動から空洞部を探そうとするのは予想外であった。ほとんど人工地震による地中探査のノリである。
クロウをして舌を巻かせたそのような綿密な探索の結果、
『見つかったのか。早かったな』
「……これまで精霊の協力を得ようとした者は、いなかったんですね、きっと……」
傍らのハンスは憮然かつ茫然の体であるが……ともかく、これまで数多のトレジャーハンターたちを退けてきたという「グーテンベルグ城の埋蔵金」。その全貌がついに明らかになろうとしていた。
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『ふむ……ところどころに遺骨らしきものはあるが、何れも残留思念は無しか』
――という事は、闇精霊たちの推測が当たっていたという事だろうか。
ともあれ思念が残っていない以上、死霊術で亡魂を呼び出して情報を得るという手は使えないようだ。とは言え、このまま放って置くのも何か後味が悪い。
(……しかし……俺は彼らの信仰とか葬送儀礼については何も知らんしな。地球方式の葬儀だと気に入らんかもしれんし)
暫し考えていたクロウであったが、やがて遺骨を一ヵ所に集めると、ダンジョンマジックを使ってそれらを元素に分解し、風に吹き散らす事でクロウなりの葬送を終えた。大自然の輪廻に還らせてやれば、大体どこからも文句は出ないだろうと考えての事であったが、これには精霊たちも感嘆していたし、
『まぁ、何というか一種の風葬だな』
『ふむ……人間たちの風習は能く知らんが……概ね問題はあるまいよ』
精霊樹の爺さまも異存は無いようであった。
『さて、一応訪問の礼儀は尽くしたとして、中を拝見させてもらうとするか』




