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第二百二十三章 泥縄道路騒動 1.モルファン王城【地図あり】

新章の開始です。

 舞台変わってこちらはモルファンの王城である。


 兎にも角にも王族の留学に関して、イラストリアの内諾が得られた。まずは仕事も一段落……と思っていた矢先の事、実務の担当者から上がってきた一件の問い合わせが、財務卿の心の平穏を一気に、しかも盛大に破った。

 曰く――〝王女の留学に関する予算の立案に必要なので、予定している馬車の台数と移動ルートを教えてほしい〟


 この一件の問い合わせが、地獄の釜だか魔女の大鍋だかの蓋を開ける事になった。


 ――時は九月、奇しくもカイトたちの一行がワレンビークの町に到着した日の事である。



・・・・・・・・



「……道路の整備……だと?」

「第三王女が来年早々に留学あそばすというのなら、悪路を歩かせる訳にはいくまいが」

「それは……そのとおりだが……?」

「何か問題が……あ!」



 問題点に気付いたらしき若い国務卿の顔が、劇的に(あお)()める……のを通り越して白化する。



「そうだ。王都近辺は問題無いし、フェントホーフェンからユレンベルクまでの道路事情も、まぁ大丈夫だろう。だが、その先……特にノイワルデからツーラを経て、イラストリアへ至るまでの道路事情はどうなっている?」



 事情が飲み込めた国務卿たちは凍り付いているが、ここで恐らく事情が飲み込めないであろう読者のために説明しておこう。



挿絵(By みてみん)



 モルファンの首都モルトランからイラストリアを目指す場合、直線距離で考えるなら、ワレンビークからツーラを経由するのが最適解である。実際に飛竜(ワイバーン)を用いる場合にはそうしている。

 ところが、陸路となると少々事情が異なる。モルトランとワレンビークの間には広大な湿地帯が横たわっており、徒歩か精々馬一頭ならまだしも、馬車が走破できるようなルートは存在しない。ゆえに、フェントホーフェンからユレンベルク、ツーラを経由して国境に向かう事になる。結果として若干の遠廻りを強いられる事になるが、それはまだいい。


 問題なのは、これまでモルファンとイラストリアの交流は、そこまで盛んではなかったという事である。


 交流が盛んでなかったため、(ひっ)(きょう)イラストリアへ向かう街道の整備は後回しにされ……早い話が、ノイワルデから先の道は、お世辞にも立派とは言えない代物であったのだ。凸凹が酷いのは無論の事、下手をすると大型の馬車など脱輪しかねない場所も一ヵ所や二ヵ所ではない。いや、それどころかユレンベルク~ノイワルデ間の道路事情すら、必ずしも褒められたものではなかったのである。


 これに加えて、ツーラという街の特殊性があった。


 このツーラという街は、国境を挟んでイラストリアのノーランドと対峙するように造られた、早い話が防衛拠点であった。

 イラストリア側からの侵攻に備えるという観点からは、ツーラから国境までの道路を進軍し易いように整備するなど(もっ)ての(ほか)な訳で……()わば軍事的必然性から、道幅の拡幅は(おろ)か整地すら為されていなかったのである。


 ――王家の馬車を通すなど論外であった。


 今までこれに気付かなかった理由は単純なもので、誰も問題の街道を通らなかったためである。


 何しろモルファンの領土は広大。なので移動にも飛竜(ワイバーン)を使う事が多かった。

 イラストリアへ派遣した使節もその例外ではなく、国境の手前までは飛竜(ワイバーン)で飛んで行き、そこから先は――さすがに隣国の空を飛竜(ワイバーン)で飛ぶような()(しつけ)な真似は(はばか)られたので――馬車を仕立ててイラストリアに入ったのであった。

 言い換えると――問題になっているユレンベルク~ノイワルデ~ツーラの道路事情など誰も実見しておらず、意識の埒外(らちがい)にあった訳だ。



「……飛竜(ワイバーン)を使う訳には……いかんのだな?」

「単なる表敬訪問なら、それでも何とかなるだろう。しかし、今回は駄目だ。一度限りの訪問ではなく、留学なのだからな。使用人や家財道具を運ぶ馬車も随伴という事になる」

「商務の方から言わせてもらえば……今回の留学を契機として、あわよくばノンヒュームの商隊を誘致できぬかと企図しているのだ。なのに、肝心(かんじん)(かなめ)の街道が粗悪で、しかもモンスターや盗賊が出没するなど……」

「話にならん――か」



 先にも述べたが、ツーラの街は飽くまで防衛としての機能に主眼を置いているため、敵軍の侵攻を阻むであろう要素――モンスターや野獣、盗賊など――の排除は進めていない。ただし国境を越えようという自国民に対しては、適宜ツーラの守備兵が警護に就くようになっており、これはイラストリア側でも同じであった。ゆえに最低限の安全保障は為されていると言えるのだが、安全とか快適とかの形容とはほど遠い状況なのも事実である。少なくとも、ノンヒュームに対する誘い文句・売り言葉にはなりそうもない。



「……ここでこうしていても始まらん。とにかく現場の道路事情を確認するのが先だ」



 ――という事になって、王都モルトランから各地に飛竜(ワイバーン)が派遣されたのであったが……



・・・・・・・・



「……やはり、ノイワルデ~ツーラ間は整備が必要か……」

「それも大規模にな」

「ユレンベルク~ノイワルデ間もだ。問題のある箇所が何ヵ所かある」

「ツーラから国境までは……」

「ツーラの守備兵と……あとはブルクホーン辺境伯に頼むしかあるまい」

「国境付近はそれでいいとして……その他はどうする?」

「領主だけでは到底間に合うまい。国として……そう、冒険者を雇って作業に当たらせるのはどうだ?」

「これから冬になるが……幸い、問題の場所は我が国の南端だ。寒さも積雪もそこまで酷くはない。冬にも少しずつ作業を進めれば、雪解け頃には何とかなるだろう」


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