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第二百二十二章 シェイカー討伐隊~侵掠者を討て~ 17.討伐戦顛末~誤解と迷推理のフーガ~(その7:イラストリア)

(くだん)の洞窟がダンジョン跡地であって、『シェイカー』はそれに手を入れて使っているだけだとすると、問題になるのは〝ダンジョン跡地をどうやって気付かれずに改装したか〟――という点になります」

「……二人の話じゃ、結構入り組んだ造りになってたってぇからな。入り組んでたなぁ(もと)から……ダンジョンの頃からだとしても、入口が複数あったってなぁ(いただ)けねぇ」

「ふむ? そうなのか? イシャライア」

「ダンジョンコアにとってダンジョンってなぁ、()わば狩り場ですからね。獲物に逃げられねぇように、入口は一つか――精々二つってのがほとんどなんで。こいつぁクルシャンクのやつも言ってましたがね」

「つまり……最低でも複数の入口と進入経路を、『シェイカー』たちが整備した筈。……そう言いたいのだな?」

「ふむ……(つち)(のみ)で掘ったのなら、その物音で気付かれぬというのが腑に落ちぬ。……なら、土魔法を使ったのではないかの?」



 したり顔で述べる宰相に、ウンザリした視線を向けるローバー将軍。これだから素人ってやつぁ……



(いただ)けねぇ理由の二つめがそれなんで。ダンジョンってなぁ()()べて、ダンジョンコアの魔力が染み付いてるもんでしてね。討伐ダンジョンにしたって、その魔力が抜け切らねぇうちは、魔法でどうこうはできねぇんですよ。あそこのダンジョンが討伐されたなぁ百年以上前だってぇから、新しいダンジョンコアが着生する事ぁできた筈です。……ですが、人間が、しかも大規模に土魔法を使って、中を改築できたかってぇと……」

「……難しいと言うのか?」

「少なくとも、魔力の動きを伏せたままというのは難しいかと」

「「う~む……」」



 眉間に皺を寄せて考え込んだ国王と宰相をチラリと見て、ウォーレン卿が話を続ける。



「派遣した斥候の一人、ダールという男が、興味深い事を指摘しています。内部にあった大広間は、単に同士討ちのためだけに整備されたとは思えないと」

「ほぉ……?」



 どうやらテオドラムの調査員が気付いたのと同じ事を、ダールも考えていたようである。



「大広間に幾つかの狙撃点があり、敵がそこから魔法で攻撃してきた事。および、通路から大広間への出口に恰好(かっこう)の遮蔽物があり、狙撃拠点として使えた事から、大広間は本来、十字砲火による殺し間として機能する筈ではなかったか……そう指摘しています」

「「ふ~む……」」



 再び考え込んだ国王と宰相に、



「そうなると『シェイカー』は、洞窟内へ敵を引き込んでの殲滅(せんめつ)を、当初からの作戦計画として持っていたという事になります。侵攻兵力がどれくらいの規模になるのかまでは予測できなかったと思いますが、今回討伐隊を洞窟(アジト)内に引き込んだという事は、討伐隊の規模は想定を越えるものではなかったという事でしょう」

「つまり――洞窟陣地にはそれなりの規模の兵が待機していた……って事になりますな」

「そこで問題になるのが兵站(へいたん)です」

「「兵站(へいたん)?」」



 議論の焦点があちらこちらと飛び廻るため、そろそろ話に()いて行くのが()(ぎょう)になってきたらしい。困惑の色を深める国王と宰相に、ウォーレン卿が噛んで含めるように説明する。



「軍が活動に必要とする人員や物資を、所定の時期に所定の場所に送る業務の事です。この場合は、『シェイカー』が籠城に当たって必要とする食糧などを、いつ、どこで、どうやって手に入れたのか――という事です」

「「あぁ……」」



 討伐隊の編成を知ってから、泥縄で掻き集めたとは思えない。仮にマジックバッグを用いたとしても、簡単に用意できる量ではない筈だ。



「これは……当初の想定以上に時間をかけて準備していたというのか……?」

「我らが思っていたより、ずっと前から仕組まれておったのじゃと?」

「もしくは……どこか近くに別の拠点があり、そこからの支援を受けたかですね」

「「支援拠点……」」



 途方に暮れたような国王と宰相に、なおもウォーレン卿が追い討ちをかける。



「しかし最寄(もよ)りの町と言えば、カラニガンを()いて他にはありません。そうすると、カラニガンの商人の中に、密かに『シェイカー』と通じる者がいるという事になります」

「「………………」」



 あんまりな話の展開に、とうとう二人の声が途絶えるに至った。



「さすがにここまでとなると、話が出来過ぎ膨らみ過ぎのような気がします。その一方で、大元の仮定が間違っている……つまり、(くだん)の拠点がダンジョンであると仮定し直すと、説明は一気に単純になります」

「「単純に――?」」

「えぇ。……シュレクの廃坑に現れたという、スケルトンワイバーンの事をご記憶では?」

「あ……」

「いつの間にやら現れ……そして、掻き消すように消えたというアレか……」



 五頭ものスケルトンワイバーンを出し入れ自在に操れるのなら、食糧の補給など何ほどの問題でもあるまい。確かにⅩが黒幕であるとすれば、難題は容易(たやす)くクリアーできる。



「……やはり『シェイカー』の黒幕はⅩ……そう考えるよりあるまい」



 ――という次第で、クロウは目出度(めでた)く「シェイカー」の黒幕に認定された。まぁ、実際その通りではあるのだが。


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― 新着の感想 ―
[一言] 兵站から正体がバレるとは思ってなかっただろうなぁ
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