第二章 外へ 3.村人
感想を戴きました。ありがとうございます。今回は、洞窟の外に出た主人公が村人を見かけます。
洞窟と精霊樹をのんべんだらりと往復する日々に、ある日変化が訪れた。
と言っても人間を見かけたというだけだが、それでも初の異世界人、それも俺と同じヒューマノイドタイプ。
警戒しつつも興奮を禁じ得ない俺と違って、従魔たちは冷めた様子。確かに連中にしてみれば、人間なんて珍しくもないだろう。異世界お上りさんの俺とは違うよな。
まぁ、浮かれてばかりもいられない。気取られないように遠くから観察する。こういう時のための双眼鏡だ。バードウォッチング用に買ったものだが、今回はマンウォッチングに役立ってもらおう。遠くて話し声は聞こえないが、そこはお役立ちのハイファがいる。では情報収集だ。
洞窟のある位置からかなり下った山麓に、彼らの村があるらしい。山中を移動して村の様子を観察する。家は見た限りでは十戸足らず、小さな村らしい。段々畑で穀物を栽培しているようだが、種類までは判らない。牛馬のような大形家畜はいないようだ。いても鶏――地球のニワトリとは違うかも――程度だろう。男も女も褐色に日焼けしているが、髪は茶褐色、直毛でなく緩くウェーブがかかっている。
観察を続けて十日ほど、行商人らしき者が村へ登ってきたという。ロバのような動物に荷車一台を引かせた、背は低いががっしりとした壮年の男だ。
『ハイファ、何を話しているのか聞き取れるか?』
『はい……馴染みの行商人のようです……下では麦が不作で……その分、この村のライ麦を高めに引き取ると……現金でなく、物々交換のようです……酒は持って来たと……塩……刃物……糸と布が欲しいと……一人が毛皮を渡せると……言っています』
毛皮? 山へ狩りに入る事があるのか? これは嬉しくない情報だ。
『いえ……畑の周りに罠をかけたと……小さいから高く引き取れないと……言われています』
畑周りの罠程度じゃ、獲れる肉の量もたかが知れてる。どうやって肉を手に入れてるんだ?
『マスター、僕、以前に村外れの森の近くで見かけました。罠で猪なんか獲ってるみたいです。弓も持ってました』
『この洞窟の近くは岩場が多いですからな。狩りには向かんのでしょう』
なるほど。今まで見かけなかったのはそういうわけか。何の準備も心構えもなく、ばったり出くわすなんて願い下げだ。今まで運が良かったんだろうな。
平穏無事に暮らすためには、この世界の情報を知る必要がある。気は進まないが接触をもつか。人間相手は疲れるんだよ。
・・・・・・・・
村人と接触するとなると、まず服装を考えないと。化学繊維のTシャツにジーンズ、スニーカーに野球帽じゃ、いくらなんでも拙いだろう。ズボンのベルトやチャックも拙いだろうし、ボタンにしても材質次第では危ないかも知れない。できるだけ村人の服と似ているものを……。駄目だ、ボタンをほとんど使わずに、紐かサッシュベルトのようなもので縛って止めている。靴は、あれは木靴ってやつか? どこで手に入るんだ、そんなもの。
『ますたぁがぁ、この国の人間に化けるのはぁ、無理なんじゃなぃですかぁ』
『むしろ異国人の旅行者として振る舞うのが適切でしょうな』
『精霊樹様に相談なさってはどうでしょうか、主様』
それだな、ウィン。困った時の爺さまだ。
本日はもう一話投稿します。




