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第二百二十二章 シェイカー討伐隊~侵掠者を討て~ 14.討伐戦顛末~誤解と迷推理のフーガ~(その4:テオドラム)

「間諜からの報告が届いたと聞いたが?」



 気の()いた様子を隠そうともせずに自室を訪れたレンバッハ軍務卿とトルランド外務卿の姿を見て、その部屋の主であるマンディーク商務卿は苦笑を浮かべた。

 ヴォルダバンに派遣した経済情報局の調査員――別の言い方をするならば、〝「シェイカー」討伐への動向と視察を押し付けられた調査員〟からの報告が届いたのはつい先程だというのに……



「耳が早いな。私もたった今、目を通し終えたところだというのに」

「まぁな。それよりも――」

「どうだったのだ?」



 挨拶(あいさつ)もそこそこに報告書の内容開示を要求する二人に、商務卿は再度苦笑を浮かべて、仕方がないというように、報告書の内容を語り始めた。



「うちの調査員の見解によると、『シェイカー』とやらは随分と経済感覚に優れた者たちらしい」

「「――おぃ」」



 そんな話が聞きたいんじゃないと突っ込む二人。しかし、商務卿は落ち着いた様子で軽くそれを()なす。



「まぁ待て。うちの調査員は経済情報の収集が本業だから、どうしてもそういう視点からの観察が多くなる。――が、報告してきた内容は極めて興味深いものだ」



 まずは話を聞いてからだ――という商務卿の宣言に、渋々ながら同意する軍務卿と外務卿。(もと)より、今回の作戦は経済情報局の厚意のようなものだ。自分たちが文句を言える筋合いではない。



「経済的な迎撃戦だと言ったのはだな、能動的な反撃が極めて限定されていたからだ」

「……何だと?」

「どういう事かね?」



 ――「シェイカー」どもは討伐隊を見事撃退したのではないのか?


 (いぶか)る二人に商務卿は、調査員が報告してきた討伐戦の顛末を開陳する。それを聞いた軍務卿と外務卿は唸るばかりであった。自分たちが知っている迎撃戦とはあまりにも違い過ぎる。



「……まぁ、一国の正規軍と寡兵の盗賊とでは、戦い方が違うのは当たり前か……」

「だが、拠点に入る前に兵力を分断されたと?」



 結果としては見事なものだが、それが「シェイカー」の手並みの巧妙なるがゆえか、それとも討伐隊が馬鹿揃いなのか、報告からでは今一つ判らない。



「うちの調査員の話では、兵力分散を期して迷路を整備したかどうかは怪しいそうだ。(むし)ろ、年月が経って本来の小径が判らなくなっていたのを、『シェイカー』の連中が利用したのではないかと言っている」

「ふむ……」

「だとすると、必ずしも『シェイカー』の者どもが狡猾だとは言えんのではないか?」

「これだけならな。だが、通路に進入してからも、『シェイカー』の襲撃は無かったそうだ。その代わりにトラップが仕掛けてあって、進行を大いに邪魔されたという」

「――待ってくれ。その通路だが……討伐隊が分断されたという事は、洞窟内に入る複数の通路があったという事だな? それらの通路は入り組んでいたのか?」



 「シェイカー」のアジトがダンジョン跡地だと聞いている軍務卿にとっては、それが重要な関心事であった。……「シェイカー」のアジトは「跡地」なのか? 今も生きている現役のダンジョンではないのか?

 「災厄の岩窟」というダンジョン内で活動を行なっているテオドラムとしては、これは等閑(なおざり)にできない問題である。



「……何を気にしているかは薄々判るが……通路の事だったな? 調査員の話では、特に複雑という程ではなかったそうだ。ただ、複数の通路の全てが広い空間に繋がっていたようだから、洞窟全体で見た場合には、複雑に入り組んでいたと言えるかもしれん」

「ふむ……」



 「災厄の岩窟」は嫌になるほど支洞が複雑に入り組んでいるが……



「では、ダンジョンではないと言うのか?」

「確実とは言えんが、そうでないという根拠は幾つかあるようだ」

「……と、言うと?」

「まず、洞窟内で襲撃が無かったと先ほど言ったが、それはモンスターの襲撃も無かったという事だ。ゴーレムもな」

「むぅ……」

「成る程、確かにダンジョンらしくないな」



 軍務卿にせよ外務卿にせよダンジョンに詳しいとは言うつもりは無いが、それでも自国内にダンジョンが現れてからというもの、それなりに情報は集めてきた。ダンジョンと言えばダンジョンモンスターが付きもので、実際シュレクのダンジョンの時など、ドラゴンやら怨霊やらスケルトンワイバーンが湧き出してきて大騒ぎになった。マナステラでも先日ダンジョンのスタンピードがあったと聞く。

 「災厄の岩窟」ではあまりモンスターを見かけないというが、それはダンジョン側の配慮によるものだろう。



「どうもあの『岩窟』は、我が軍の兵士が大勢進入する事で魔力を回収しているようだからな。或る意味では、我々こそがダンジョンモンスター扱いなのだろうて」

「そういう状況でなら、敢えてダンジョン側も我々を攻撃はしないようだからな」



 テオドラムとて、これが一般的な状況でない事には薄々気付いているが、(たま)にはそういうこともあるのだろう……くらいの認識であった。

 世間一般のダンジョン観とは大分ずれているのだが、問題になっている「災厄の岩窟」自体が、世間一般のダンジョンとは大分ずれているのだ。ゆえにテオドラム側の認識は、少なくともクロウのダンジョンに対するものとしては、それほど間違ってはいない。


 そして、そのダンジョン観に(かんが)みると……


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