第二百二十二章 シェイカー討伐隊~侵掠者を討て~ 11.討伐戦顛末~誤解と迷推理のフーガ~(その1:カラニガン)
さて、斯くの如く見事な失敗に終わった「シェイカー」討伐戦であるが、作戦に関わった一部の者にとっては、或る意味で実戦以上に厄介な仕事が残っていた。然るべき部署への報告、もしくは報告書の作成である。組織の一員として任務を請け負った以上は当たり前の事であるが、面倒な事には違いない。
そして……その報告書の内容は、所属する部署の違いによって、見事なまでの多様性を見せたのであった。
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「……最低でも二個小隊、下手をすれば中隊規模の戦力だと? ……本気で……いや、正気で言っているのかね?」
呆れたような口調で報告者を問い詰めているのは、カラニガンの有力商人。護衛や傭兵を融通し合って「シェイカー討伐隊」の一翼をでっち上げた商人の一人にして、この件の責任者を押し付けられた男である。
「……二個小隊というと百名ほどか? それほどの人数があのダンジョン跡に……」
「いえ、ご高説の邪魔をして申し訳ありませんが、ただの〝百名〟ではありません。〝二個小隊〟です」
雇い主たる自分の話の腰を折るなど無礼の極みであるが、敢えて自分の発言を妨げてまで言うべき事であったのだろう――と、幾分業腹な想いを抱え込みつつも、件の商人は自分の発言を思い返す。〝百名〟ではなく〝二個小隊〟であるという事は……
「……単なる成らず者の寄せ集めではなく、しっかりとした指揮系統を持つ集団であったと?」
「そう見えました」
「ふむ……」
――改めて商人は考え込んだ。
失敗の責任逃れのために、敵の戦力算定を過大にしているのかと思ったが……どうもそれだけではないらしい。抑今回の討伐戦は、冒険者ギルドとも協力して行なったものだ。ギルドの報告書で裏を取るのは難しくないし、目の前の男がそれを解っていないとも思えない。
である以上は、「シェイカー」とやらが単なる破落戸どもではないという、その根拠を持ち合わせているのだろう。
「……その根拠とやらを聞こうか」
「畏まりました。まず……我々は敵の根拠地が思ったより大規模で、しかも複数の脱出経路がある事を確認した時点で、手勢を分けてそれぞれのルートから進入する事にしました。兵力の分散という危険はありましたが、万一敵の脱出や逃亡を許した場合、そっちの方が問題になると判断したためです」
……ものは言いようである。
現実には道に迷った彼らが手分けして移動路を探す羽目になり、分かれた小集団のそれぞれがそれっぽい小径を見つけたはいいが、互いに連絡を取る事もできず、結果としてバラバラに突っ込む羽目になっただけだ。
全ては場当たり的で拙劣な対応の結果であり、そこに計画性などは微塵も無かったのだが――
「……続けたまえ」
――商人は一応納得する事にしたらしい。
「はい。内部に進入していた我々を待ち構えていたのは、狡猾にして悪辣なトラップの数々でした。ただし奇妙な事に、それらのトラップには我々を殺そうという意志が感じられず、足止めに徹しているように思えました」
「……奇妙と言うより不可解な話だな」
「我々もその当時は不思議でした。しかし、洞窟の奥にある大広間とも言うべき空間に到達した時、やつらの狙いが判りました」
「……狙いだと?」
「はい。やつらが狙っていたのは、正しく我々の足止め……より正確に言えば、我々の進行速度を調整して、全員が同時に『大広間』に到達するようにし向ける事でした」
「……何……?」
想定外の説明を受けて、商人の男は戸惑いを隠せない。自分は戦術の専門家ではないが、大兵力を相手にする場合は分断しての各個撃破が鉄則――という事ぐらいは知っている。
なのに「シェイカー」とやらは、敢えてその定跡を破ったというのか?




