第二百二十二章 シェイカー討伐隊~侵掠者を討て~ 8.ダンジョン防衛戦~侵掠者を討て(笑)~(その3)
そんな次第で、エコーの音魔法によって討伐隊を挑発してみたクロウたちであったが……
『……いきなり酷い事になったな……』
『マスター、これって、自動反撃システムとか、要らないんじゃないですか?』
『同士討ちだけで間に合いそうですな……』
恐らく進入してきた各チームは、互いの存在に気付いて注視していたのだろう。エコーが攻撃っぽい物音を一つ立てただけで、たちどころに酷い乱戦に陥ったのである。
『慌てた間抜けが一人〝反撃〟しただけなんだろうが……』
『それを自分たちへの攻撃と判断した相手方が――』
『他のチーム全部に攻撃を仕掛けましたからねぇ……』
『見境無しですぅ』
『で、それにクロウご自慢の「自動反撃システム」っていうのが加わった結果』
『今の惨状に至るという訳じゃな……』
二○三高地かマジノ線も斯くやと言わんばかりの酷い乱戦、しかもその大半が無意味な同士討ちとあって、当のクロウたちも引き気味である。設計した側が言うのも何だが、ここまで酷い状況になる事は想定していなかった。
『ここだけで決着がつきそうよね……』
『奥への侵攻どころではございませんな』
『討伐隊……壊滅と……言って……いいのでは……』
『まだ本番前の大広間だぞ?』
やる気満々で手薬煉引いて待ち構えていた戦闘員たちも、この有様を見て拍子抜けの体である。
『ま、あれじゃな。お主のダンジョンでは能く見られる光景じゃな』
『ですよね~』
『………………』
爺さまの当て擦りを素知らぬ顔で受け流すべく、モニターを注視していたクロウであったが、そのせいで気になる動きを見つけた。
『……何だ? ……妙に逃げ隠れの上手いやつらがいるな?』
『イラストリアの二人じゃないんですか?』
『……違う。注意して見るとあちこちにいるようだ』
『あれ? でも、あの身のこなしって……』
『テオドラムのぉ、密偵さんにぃ、似てますねぇ』
クロウを訝しがらせた不審な者たち。その正体は、謎の戦闘集団「シェイカー」――自らの標榜するところに拠れば、〝帝国主義者に抑圧されて苦しむ同胞を解放すべく立ち上がった、世界征服を企む悪の秘密結社〟であるらしい――の正体を見極めんものと、各国が送り込んだ諜報員であった。飽くまで情報収集と生還が目的であり、「シェイカー」の討伐は二の次というスタンスであったため、周りの冒険者たちとは自ずと立ち居振る舞いが異なっていた。その結果、モニターに映る周囲の兵との違いが際立つ事になり、クロウの注意を引くに至った訳である。
そしてその中には、眷属たちが気付いたとおり、テオドラム王国商務部所属の諜報員もいたのである。ちなみにこの「経済情報局」、所属は一応商務部という事になっているが、その設立や運営には財務局も一方ならず関わっているため、そちら絡みの任務を請け負う事も多い。実質的には商務部と財務部が共同で指揮する非軍事組織となっていた。
そして、そんな彼らがなぜまた、明らかに畑違いの討伐任務などを押し付けられてこの場にいるのかと言うと、実はこういう事情があった。




