第二百二十二章 シェイカー討伐隊~侵掠者を討て~ 6.ダンジョン防衛戦~侵掠者を討て(笑)~(その1)
さて、肝心要のダンジョン(跡地)攻略戦であるが、これは討伐側の思い描いていたような展開にはならなかった。
討伐側の想定では、討伐隊が複数の方向から襲いかかる事で「シェイカー」の守りを手薄にし、そこを突破しようという計画であったが……実際には迷路宛らに錯綜した小径のせいで、兵力分散を強いられたのは討伐隊の方。しかも、今に至るも合流は疎か、連絡を取る事すらできていない。
討伐側にしてみれば悪夢のような、そして、クロウたちダンジョン防衛側にしてみれば……
『願ってもない展開になってきたな』
『はい。やつらがこのまま進むと、最初の広場で鉢合わせする事になります。その時、互いに味方だと気付くかどうか……』
このダンジョン「谺の迷宮」は、敵の攻撃に対して自動で、しかもランダムな方向から反撃するという、或る意味素敵な迎撃システムを備えている。今回はその実戦試験という面があったため、相互に連絡の取れていない集団が不意に鉢合わせをするという展開は……
『上手くすると同士討ちが見られるかもしれんな』
――と、クロウたちの期待を弥が上にも煽ったのである。
尤も、クロウたちの側にも誤算があった。それは――
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「畜生っ! また行き止まりだ!」
「こかぁ何だってこんなに入り組んでやがんだ……。これじゃ住んでる連中だって迷うだろうによ」
「おまけに狭苦しくて足場も悪い。万が一の時のための脱出路なのかもしれんが……」
「だったら尚更、転んだりしねぇよう足場は整備しとくもんじゃねぇのか? 逃げ出そうって時に足を取られちゃ拙いだろう」
「お~い、大丈夫かぁ?」
「あぁ……畜生め……落石を避けた先に落とし穴たぁ、念の入った罠を仕掛けてくれるもんだ」
「幸か不幸か、落とし穴はそこまで深くない。ロープを垂らすから登って来い」
「へぃへぃ。……しかし、定番ならここらで襲撃があってもおかしかぁねぇんだが……」
「我々が複数に別れて侵攻したせいで、盗賊連中も人手が足りていないんだろう。こっちにとっては幸いだったな」
「――ぜ、全員いるか?」
「ひのふの……あぁ、大丈夫だ。揃ってる」
「まったく……何だってんだ、あの臭いは」
「……斜面で足を滑らせたかと思えば、滑り落ちた先であの悪臭……罠と言うよりは嫌がらせだな……」
「だがよ、そのせいで最初の道たぁ違うところに迷い込んだみてぇだぜ?」
「だからと言って、あの臭ぇ窖に舞い戻って、そっからあの滑り易い斜面を登る訳にもいかんだろうが。少なくとも俺ぁ御免だぜ?」
「……このまま進もう。どうせ最初の道にしても、どこに通じているか判らなかったんだ。道を変えたところで、大した違いはあるまい」
――などと、広場に辿り着きもしないうちから、あちこちで討伐部隊が足止めやダメージを被る羽目になっていたのである。今回は自動反撃システムの実地試験という事で、それらの罠は非致死性のものに置き換えられていたのであるが……
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『……あいつら、ここがダンジョン――少なくともダンジョン跡地だって事を解ってないのか……?』
『まるっきりの力押しですね、マスター』
『盗賊退治……のつもりで……ダンジョン攻略……など……考えていない……のでは?』
『それで遮二無二突っ込んで来る訳か……』
『これだと会敵時間が大幅に遅れますね』
『……已むを得ん。罠と迷路の一部を解除して進行をスムーズにし、やつらが上手い具合に鉢合わせするよう調整しろ』
『うぇぇ……』
『面倒な事になりましたな』
『仕方がない。それもこれもあいつらが無能なせいだ』
『お主のダンジョンが水準以上に悪辣なせい――とは考えんのかのぅ……』
――などと、恙無くシステムの実地試験を進行させるべく、裏でクロウたちが人知れず進行調整に奮闘する羽目になっていたのであった。
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「……おぃ……ここまで進んで来たってぇのに……」
「あぁ……お出迎えの一つも無いな……」
「迎撃に適した場所は、ここまでにも何ヵ所かあったんだが……」
――クロウとしては自動反撃システムの実働試験が目的な訳であるからして、被験者たちが試験会場に進むのを邪魔する訳が無い。
「見張りもいない。内部へ引き込んで迎え撃つつもりか……」
「つまり……この先には敵さんが……」
「手薬煉引いて待ち構えてる――って訳かぃ……」




