第二百二十二章 シェイカー討伐隊~侵掠者を討て~ 5.意外な再会
さて、クロウたちを困惑させた討伐メンバーが誰かというと……これが何と、お馴染みダールとクルシャンクの二人であった。
この二人はイラストリアが放った密偵であり、そのイラストリアはクロウやノンヒュームたちと事を構えるのを避けている筈。なのになぜ、この二人が討伐隊に入っている?
困惑の念に囚われたクロウであったが、事情は案外単純なところにあった。
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二ヶ月ほど前の事、アムルファンの町インシャラに辿り着いたダールとクルシャンクは、〝アムルファンでの調査を済ませた後はヴォルダバンへ赴き、そこで見つかったというマナステラの贋金貨、及び、このところヴォルダバンを騒がせている「シェイカー」盗賊団とアバンの「迷い家」について探るように〟――という、盛り沢山かつ涙目ものの指令を受けたのである。
一頻り続いた悲憤慷慨・悪口雑言の後で、中っ腹を抱えた二人は、それでもとにかく指示には従うべくインシャラを南下、セルキアの町から進路を南へ転じてヴォルダバンに入り、カラニガンの町に辿り着いたのが数日前。そこでカラニガンの商人たちが、噂の「シェイカー」討伐隊を募集しているという話にぶち当たったのである。
――ここで珍しくもウォーレン卿の配慮が裏目に出る。
何しろⅩことクロウに関しては推測に頼らざるを得ない部分が大きい上、情報の大半が国家機密に属するものとなっている。如何に優秀であるとは言え、一介の下士官においそれと明かせるものではない。
ゆえにウォーレン卿もローバー将軍も、必要な箇所以外は暈かして指示を与えた訳だが……そのせいで、「シェイカー」の黒幕がⅩだと疑われる事、Ⅹに関しては厳に手出し無用な事などが、すっぽりと抜け落ちてしまっていたのであった。
そんな情報しか与えられなかったダールとクルシャンクの目には、この討伐隊への参加者募集は、「シェイカー」の事を探る上で降って湧いた好機としか映らなかった。
クルシャンクは以前に冒険者だった頃のギルドカード――当時は違う名前で登録していたが、別に珍しい事ではないし、今回は却って都合が好い――を持ち出して冒険者として、冒険者でないダールは自己責任という形で、それぞれ討伐隊に参加する事になった……というのが事の次第であった。
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『……どうも能く解らんな。イラストリアは何を考えている?』
先述したように、イラストリア上層部の思惑を図りかねていたクロウであったが、
『それですがご主人様』
『うん? 何か気付いたのか? スレイ』
『あの二人もでございますが、イラストリアは「シェイカー」と我々の繋がりに気付いているのでしょうか?』
『あぁ……それがあったか……』
「シェイカー」は飽くまで〝抑圧された同胞を解放すべく立ち上がった、世界征服を目論む悪の秘密結社〟である。……冷静になって考えると、その立ち位置に随分とブレがあるような気もするが……少なくとも、表向きにはそう公言している。そこにノンヒュームやクロウとの接点を窺わせるものは何も無い……筈である。
上層部は薄々気付いているかもしれないが、実働部隊の下っ端がその事を知らされているかどうかは疑わしい。それに加えてあの二人が、どこまで本気で討伐戦に参加するのかというのも甚だ怪しいものだ。
翻って、「シェイカー」の情報を探るという点では、「討伐隊」への参加――「討伐」への参加ではない――は色々と好都合であろう。
『ふむ……敵に廻ったと考えるのは早計か。……だが、実際問題として、あの二人をどうする? ダンジョン内での反撃は全自動だ。下手に手加減などできんぞ?』
『それはまぁ……彼らの自己責任という事でいいのではないでしょうか?』
『……万一の場合のフォローのために、シュレクから治癒魔法持ちのゴーストを呼んでおくか……』




