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第二百二十二章 シェイカー討伐隊~侵掠者を討て~ 3.進め! 討伐隊(その1)

 さて、そんな諸々(もろもろ)思惑(おもわく)から実施の運びとなった討伐隊派遣であるが、これがまた(はな)から()(らん)(ぶく)みであった。

 何しろ討伐の準備は順調に進められてしまっているのに、目的地、すなわち「シェイカー」のアジトの位置すらまだ判明していないのだ。「シェイカー」一味の襲撃と撤収の手際が見事であったゆえの事態であるが、そんな事情は何するものぞとばかりに、商人たちは即座の討伐を喚き立てているのだから厄介極まりない。


 半ば開き直った冒険者ギルドは、恐らくアジトになっているのは(かつ)てのダンジョン跡地だろうとの大いなる予断の(もと)に、討伐隊の派遣に踏み切ったのであった。

 仮に目当ての場所に盗賊ども(シェイカー)がおらず空振りだったとしても、それはそれ、日当と費用は商人たちに請求する腹づもりである。これに商人たちが文句を言ったら、目的地を指定もせず、また、目的地を探して確定する暇も与えずに派遣を強要したのはそっちだろうと、きつい(さか)()じを喰らわせてやれる。(むし)ろ空振ってくれた方が有り難いぐらいだ。


 ところか、そういう訳にはいかないのがもう一方の集団、(くだん)の商人たちから派遣された護衛や傭兵たちであり、彼らは何が何でも賊を討伐してこいという厳命を受けていた。雇傭や給与に直結しているだけに、彼らの意気込み――と、その悲愴さ――は冒険者たちの比ではなかったのである。


 そしてこれら二つの集団に混じって、各地各国が密かに派遣した物見の者たちがいる訳で……


 ()くの(ごと)く、(そもそも)の始まりから温度差のある集団に分かれていた討伐隊であるが、そこへ更に討伐隊を分裂させる要素が立ち(ふさ)がる。


 (そもそも)「シェイカー」が難敵なのは、討伐側も最初から判っている。(シェイカー)が洞窟陣地に籠もっているとすれば、その攻撃に必要な兵力は最低でも三倍。敵の錬度を考えに入れれば、恐らくは五倍以上の兵力が必要となるであろう。しかし生憎(あいにく)な事に、討伐側が用意できた戦力はそこまでには足らなかった。


 ――ではどうするのか。


 そこで考えられたのが、複数の集団に分かれて別方向から敵陣に接近し、釣り出された敵兵力の挟撃を狙おうという……兵力も陣容も判っていない敵を相手取るにしては、あまりにも楽観的(のーてんき)な計画であった。


 ()くして討伐隊は、取り敢えず冒険者チームと商人派遣チームの二手――あまり細分すると兵力が手薄になるので――に分かれて、敵兵力(シェイカー)の根拠地と思われるダンジョン跡地を目指(めざ)したのであったが……



「畜生! また行き止まりじゃねぇか!」

「この地図は本当に確かなんだろうな?」

「さぁ」

「……おぃ……〝さぁ〟ってのは何だ? ()(めえ)、パチもんを掴ませやがったってのか?」

「落ち着け。そういう意味じゃない」

「じゃあどういう意味だってんだ!?」



 顔を真っ赤にして喚き立てる同僚に溜息を()くと、その男は事情を説明し始める。



「何しろ、(くだん)のダンジョンが討伐されたのは百二十年も前だ。それ以降、地図の更新はされていない。こう言えば解るだろう?」

「……つまり……その百二十年間に地形や道の様子が変わっていても……」

「地図には反映されていない……って事か……?」



 手早く一言で(まと)めると、



「……ダンジョン跡地への道筋どころか、地形図としても怪しいって事かよ……」



 厳密に言うなら、(くだん)のダンジョン跡地は幾度か盗賊たちの根城として使われており、その討伐の際に地形などが変化している事は確認されているのであるが、その情報が地図という形で更新されていないのである。


 そして、こういう事態に陥った場合の対処法も、場当たり的かつテンプレなものにならざるを得ない訳で、



「……仕方ねぇ。手分けして正しい道を探すぞ」

「討伐前からこんな調子で、大丈夫なのかよ……」



 討伐隊は更に複数の小集団に別れる羽目になった。そうして――



「……どうやらこれが正しい道らしいな……」

「畜生め……腹の立つほど見事に隠されてやがる」

「普通に歩いていて気付かんのも無理はないな、これじゃあ」

「よし、他へ行った連中を呼び集めろ」



 ――となったのであるが、



「……これだけか?」

「呼びかけに応えて戻って来たなぁこんだけだ。他の連中は応答が無ぇ」



 (ろく)な通信手段も持っていない者たちが分散すれば、相互の連絡もまともに取れなくなるのは、自明の結果というものであった。



「どうするよ? もう(しばら)く待ってみるか?」

「合流が確実ならそれもいいだろうが……」

「ここまで周到に道を隠してる連中だ。他に隠し道があっても不思議じゃねぇし……」

「……戻って来ない連中が、そっちを進んでる可能性もある訳か……」

「だが、のんべんだらりと待ってちゃ日が暮れるぞ? 一応は奇襲を狙っている訳だから、笛や狼煙(のろし)で合図する訳にもいかん」

「……()むを得ん。目印だけ残して先に進もう。後から追って来れば、目印に気付くだろう」



 こういう事態があちこちで発生した結果、出発時にはそれなりの規模を持っていた討伐隊は、今や心細いほどの小集団に分割されていたのであった。

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