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第二十八章 ヴァザーリ伯爵領 4.クロウの心理戦講座

後日談のような話になります。

『あ~、今回のヴァザーリ伯爵領での作戦について、各方面から多くの質問が寄せられているので、今回はそれらの質問に答える形で、俺の世界の心理戦および情報戦といったものについて、簡単に解説しようと思う』


 今回の作戦に関しては、ロムルスとレムスのダンジョンコア組、はては爺さまに至るまでが何やかやと質問を寄越(よこ)してきた。一々解説するのも面倒なので、今回このような形で心理戦の基礎をお(さら)いしておこうと考えたのだ。皆が心理戦の重要性について学べば、作戦の実行もスムーズになるし、何より俺たちの引き籠もり生活の安全性が高くなる。コレ、一番大事な。


『まず第一に、心理戦・情報戦に限らず(いくさ)の基本とは、味方の情報を徹底的に秘匿する事にある。こちらの情報を徹底して隠せば、相手はこちらの動きが読めなくなる。そうする事で、相手の行動に掣肘(せいちゅう)を加える事ができる』

『それって、マスターが、今までやってきた事ですよね?』

『そうだ、キーン。シルヴァの森でも、バレンでも、ヴァザーリでも、俺たちが徹底的に正体を隠してきたのは全てこのためだ』

『確かに、こちらの正体と出方が読めぬので、相手が右往左往しておりましたな』

『正体と所在を……隠すだけで……相手を……いいように……あしらえました』


『逆に、こちらの正体を知られたら、俺たちのような小勢は一気に旗色が悪くなる。小勢で大勢を相手にする時には、こちらの情報を秘匿するのが基本なんだよ。「いつ、どこで、誰が、何を、どのようにして」、これらの情報を秘匿すると、相手は起こり得る全ての事態への対処を()いられる。その分だけ相手を消耗させる事ができるし、相手の軍勢を分散させて一ヵ所当たりの兵力を減らせれば、小勢でも充分に戦う事ができる。また、こちらの出方が判らないということは、相手に不安を与え、上手くすればストレスによって判断を鈍らせたり誤らせたりする事も期待できる』


『なるほど、大変に参考になります』

『私たちのダンジョンもその考えに基づいて設計されていますよね?』

『ああ、そうだ。こちらの出方を秘匿する事で侵入者の負担を増やし、消耗させる事を狙ったんだが……それ以前にあっさりと死んだよな』

『いえ、勇者たちのパーティは結構消耗してましたよ?』

『こちらに来た冒険者は、そこまでいく前に全滅でした……』

『ま、まぁ、とにかくそういうわけだ。今後も俺たちの戦いでは、正体を隠すのが何より重要だと(きも)(めい)じて欲しい』


『クロウ様、次にヴァザーリでの戦について、特に今回、あのような特異なスケルトンドラゴンを投入した理由についてお尋ねしたいのですが』


 情報秘匿の重要性についての講義が一段落したところで、ロムルスからヴァザーリでの戦についての質問があった。興味津々(きょうみしんしん)だったみたいだからな。情報秘匿云々よりも、こっちの方を聞きたいのが本音だろう。


『どうせこやつの事じゃ。面白半分に創ってみて、使えそうだったから使ってみた、それだけの事ではないのかのう』

『ご挨拶だな、爺さま。他にも理由はあるぞ』

 やべぇ、爺さまズバリと核心を()いてきたな……。何とか誤魔化さないと。


『今回の作戦では、ヤルタ教からの信者の離反を目的とした。そのためには、ヤルタ教自体が神の名を(かた)るインチキ宗教だと示すのが有効だ。そこで今回、まず、神の使徒っぽいスケルトンドラゴンを召喚して、これをヤルタ教にぶつける事で、ヤルタ教が神の教えじゃないのではないかと疑わせた』


 よし、それっぽく聞こえただろう。理外の宝玉を使ったら透明に輝くようになったのは予想外、ってのは黙っておかないとな。実際は見かけがああなったんで、それに似合いそうな聖魔法を付けたというのが本当のところなんだが。


『次に、ヤルタ教が神に(そむ)く存在なら、その信者である自分たちは何なのか、そう考えさせる事で不安を(あお)った』


 まぁ、この辺はあのスケルトンドラゴンを見ていれば浮かんでくる発想だよな。


『最後に、自分たちはヤルタ教に(だま)されていただけだと考えるように思考を誘導すれば、民心はヤルタ教から離れるわけだ』

『ご主人様……その辺を……もう少し詳しく……お願いします』

 ハイファか、お前も興味ありそうだったよな。


『人間というのは、自分の不始末の責任を他人に押しつけたがるものだからな。自分たちが神に敵対したと思いこんだら、「自分たちは、何者かの謀略によって、神に敵対するようし向けられた」と考えたいのが人情だ。そして今度の場合、何者かというのはヤルタ教以外にないだろう?』


『民衆の心を操る事で、彼らを手駒とするわけでございますな』

『そうだ。人の心を攻める事で、こちらの兵力を何倍にもする事ができる』

『大衆を操って自分の有利な状況をつくり出すわけですか』

『軍勢が向けられる前に、そうさせないような状況にしてしまうという事ですね』



『まぁ、こういったところが心理戦の基本だな。今回はこれくらいにしておこう』

『ありがとうございました~』

本話で第二十八章は終わりです。明日は挿話を夾んで新章に入ります。

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