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第二百十九章 ベジン村異変(笑) 9.ベジン村「発」百鬼夜行~ガット村(二の幕)~

 その日を境として、今度はガット村を数々の異変が襲う事になった。


 例えば村の共用井戸の水が、汲み出している最中に急に血のような赤い色に変わり、村の主婦連が肝を潰した。井戸を遠巻きにして恐る恐る様子を窺っていたら、今度は井戸の中からズルッ、ズルッと、何かが這い登ってくるような音がする。カミさん連中の恐怖は最高潮に達したが、恐怖のあまり足が(すく)んで逃げ出す事もできない。俗に云う〝蛇に魅入られた蛙〟のような状態である。

 そうこう見ているうちに、井戸の中から伸びた真っ赤な手が井戸の縁を掴み、そのままぐぐーっと身を乗り出そうとして……

 ……誰かの絶叫で金縛りが解けた主婦連は、泣き喚きながら思い思いの方向に逃げ出した。



・・・・・・・・



『う~む……スライムも水精霊も、どんどん腕が上がっていくな』

『話を聞いて以来、ずっと練習を繰り返しておりましたからな』



 ――言うまでもなく、この怪異の仕掛け人もクロウである。


 井戸水が真っ赤に変じたのは、水を媒体にして転移できる【媒水転移】という能力を持つ肺魚(フェイカーディプノ)――今回の作戦参加を機に、ラングという名前を貰っている――が、安心安全な食紅を井戸の中にぶちまけただけである。

 その後に現れた「赤い手」は、実は芸達者なスライムと水精霊の共演の賜物(たまもの)であった。前日夕刻、釣り人を脅かした「水の手」を演じたスライムが、今回もその身体を手のような形に変えて見せたのである。その身体が血のように赤く染まっていたのは、こちらは水精霊の働きであった。赤く染まった井戸水を水魔法で巧くスライムに(まと)わり付かせたのだ。スライムが食紅を取り込んで色が抜けなくなる事を懸念したクロウの指示であった。何かが井戸の壁を這い登ってくるような音は、無論エコーの【音魔法】である。


 村人たちの水事情を思いやったクロウの指示で、赤く染まった井戸水は翌日には綺麗な水と入れ替えられたが、すっかり(おび)えた村人たちは、その後も(しばら)く井戸に近寄らない日が続いたのであった。



・・・・・・・・



 ――ガット村を襲った怪異はそれだけではなかった。


 風も吹いていない場所に、突然(つむじ)(かぜ)が巻き起こる。自分たちに風は感じられないのに、そこだけ強い風が吹いているかのように。唖然として見つめる村人たちの目の前で、(つむじ)(かぜ)はゆっくりと移動を始めたのだが……その動いていく後で、音もなく地面が陥没していく。丁度、見えない何かが足跡を残していくように。

 ……村人たちは者も言わずに駆け出した。


 言うまでもなくこれも、クロウに入れ知恵された風精霊と土精霊の仕業である。爺さまの嘆きを他所(よそ)に、クロウの薫陶を受けた精霊たちの腕前は、CG無しで特殊効果の演出が務まるレベルにまで達していた。地球に来れば引く手数多(あまた)だろう。


 ……そして夜には、



「な、何だ!?」

「うわぁっ?!?」



 締め切った家の中で不意に突風が吹いて家人の度肝を抜いた。

 只の風だけならそこまでパニックに陥る事は無かったかもしれないが、何しろ夕べからこの方、村では怪異が続いている。()して、風の合間に不気味な唸り声が合いの手を入れるとなれば、これは逃げ出すなと言う方が無理というものだ。



「おぃおぃ……何、泡喰ってやがんだ?」



 逃げ出した一家を見かけた村人が、呆れたような声で仔細を(ただ)そうとするが、



「か、か、か(風が)……い、い、い(家の中で)……う、う、う((うめ)き声も)……」

「あぁ?」



 返って来た答はまるで要領を得ないものであった。


 首を(かし)げる男がふと視線を脇にずらしたところ、畑の麦が――風も無いのにそよいでいた。

 ……まるで、何かが、畑の中から、こっちへ進んで来ているように。


 ――今度は男も一家と一緒に駆け出した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 蛇に魅入られた蛙と言うのはきいいた事ないぞ? 睨まれるか 見込まれるの間違いでは 自分は睨まれるの方が好きですね、なんか響きいいですし
[良い点] ドンドンと精霊達が知恵や工夫を身に付けているトコ。 [気になる点] 天狗倒しや石の礫とか、魔法のある世界ではあって当たり前な「脅かし方」の大半が使えないのが残念。 [一言] 今回の精霊達か…
[気になる点] 〝蛇に魅入られた蛙〟 …「睨まれた」では? あるいは、「見込まれた」(weblio類語辞典で検索)
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