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第二百十九章 ベジン村異変(笑) 2.ベジン村百鬼夜行(序幕)

 その日――ヤルタ教の伝道士という者たちの尽力によって村を窺っていた悪霊たちを追い払い、平穏な日々を取り戻しつつあったその村を、異変が襲った。


 そして、それが新たな恐怖の始まりであった(笑)。



・・・・・・・・



「……なんだ?」



 その日、ベジン村の村人たちは、遠くから聞こえてくる「声」のようなものに気付かされた。

 屋外にいた者は(もと)より、屋内にいた者の耳にも届いたそれは……獣の遠吠えのようにも、或いは何者かの(うめ)き声のようにも聞こえ、(いや)が上にも村人たちの不安を掻き立てた。



「……おい……これって……」

「あぁ……『山』の方から聞こえてくるな……」

「………………」



 彼らの言う「山」とは、木を伐り過ぎて禿げ山となりつつある山そのものを指す事もあるが……この場合はそれに加えて、悲劇的な全滅をした植林者たちの集落跡の事も意味していた。


 その経緯から不吉な場所として避けられてきた集落跡で、(おぼろ)()に光を放つ火の玉のようなものが見られるようになったのは()(つき)ほど前。

 村に実害は無かったものの、場所が場所だけに不安に(おのの)いていた村人たちを救ってくれたのが、ヤルタ教を名告(なの)る伝道士たちであった。聞けば村の苦難を耳にして、遙々(はるばる)隣国からやって来てくれたのだという(笑)。噂が隣国イラストリアにまで届いているのか――という疑いも抱かずに、純朴な村人たちは自分たちの不安と(おび)えを伝道士たちに訴えた。訴えを聞いた伝道士たちの奮戦の甲斐あって、それからこっちは人魂(ひとだま)(なり)を潜めていたのだが……



「……おぃ……」

「あぁ、また聞こえたな……」

「畜生……恨みがましいような、呪わしいような……嫌な響きだぜ……」



・・・・・・・・



『よ~し、良い出来だぞエコー』

『恐れ入ります』



 村人たちを怯えさせた「声」の正体は、新たにクロウの従魔となったフェイカーバットの【音魔法】であった。長らくクレヴァスで従魔候補の地位にあったが、この度の作戦参加を機に、他の従魔候補ともどもランクアップを果たしたのである。

 ちなみに、「エコー」というのはその時に貰った名前である。本来は、〝お(しゃべ)りが過ぎたために女神ヘラの不興を買って、(おう)()返ししかできなくなったギリシア神話の女精(ニンフ)の名前〟であるが、他に手頃な名前が思い付かなかったクロウが、男女平等の標語(いいのがれ)(もと)に命名したものである。……エコー本人は気に入っているようだが。

 (いささ)か話が()れたが今回の「声」、エコーの【音魔法】で音源の方向を偽装しているだけで、実際には山から聞こえてきている訳ではない。しかも同じく【音魔法】によって、屋内外を問わずに聞こえるようにしているところが、また芸が細かい。


 そして、問題の「声」であるが……



『うむ、さすがに皆の投票で選んだだけあって、効果の程も上々だな』



 ……あろう事か、クロウが現代日本の各種ホラー映画などから拾い集めてきた効果音の中から、眷属たちの投票によって選ばれたものであったりする。ちなみに、良識派を標榜する爺さまなどはブツブツと文句を言っていたが、それでもしっかり投票に参加していたのはここだけの話である。



『……よし、そろそろ頃合いだろう。シャノア、ダン、用意はいいな?』

『勿論!』

『お任せ下さい、陛下(マジェスティ)

『みんなもいいわね?』



 シャノアの言葉にざわついて同意を示したのは、数十名はいようかという闇精霊たち。



『よし。それじゃあ、やってくれ』



・・・・・・・・



「おぃっ!?」

「な……何だ? 急に辺りが……」

「畜生! 何も見えねぇ!」



 突然村人たちを闇が押し包んだかと思うと、村人たちは〝鼻を(つま)まれても判らぬ〟程の闇の中に、それぞれ取り残される事になった。それまで辺りを照らしてくれていた月の光も星の瞬きも、それどころか隣にいる筈の隣人の姿すら見る事ができない。

 不安に駆られた村人たちが銘々に駈け出そうとしてぶつかり合ったり、(おび)えて振り回した手が隣の者に当たったり、そのせいで隣の者がパニックに陥ったりと……ちょっとした阿鼻(あび)(きょう)(かん)(ちまた)が出現する。


 実はこれ、クロウの依頼を受けた闇精霊たちがノリノリで放った【視覚遮断(ブラインド)】の魔法のせいである。

 闇精霊が一体で使った【視覚遮断(ブラインド)】なら、村一つを丸々封鎖するような事はできなかったろう。しかし、今回は自分たちの失点――精霊たちの発光が村人に目撃されたのが騒ぎの発端――を取り返そうとした闇精霊たちが(こぞ)って参加している上に、シャノアとダンは縁を結んだクロウから魔力の供給を受けられる。たかが村一つを暗黒に封じ込めるぐらい、余裕であった。


 効果は充分とみたのか、やがて村人たちを取り込んでいた闇は退()いて行き、彼らは再び視覚を取り戻したのであったが……



「……何だ……一体何だってんだ……?」

「唸り声に闇……何かの祟りじゃねぇだろうな……?」

「何かって……」



 決まっている。(かつ)て恨みを呑んで死んでいった、植林者たちしかいないではないか(笑)。



「……怨霊は伝道士様たちが鎮めて下さった筈じゃねぇか」

「けどよ……」



 不信と(おび)えに囚われる村人たち。


 だが……これはほんの前奏(プレリュード)にしか過ぎなかったのである。


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