第二百十八章 モルファンの動揺再び 6.再び「コンフィズリー アンバー」(その2)
一方、カルコの報告を受けたモルファン本国では……
「……という説明であったらしいが?」
「鵜呑みにはできんな。現に魔力の痕跡を残す糖蜜という証拠があるんだ」
「うむ。抑だ、我らとて砂糖の取引はそれなりに長いが、そのような原料作物の事は聞いた事が無い」
「何らかの理由で秘匿していると考えるのが妥当だろう」
――クロウが原料作物を秘匿しているのは事実であるが、その理由はモルファンが疑っているのとは全く違う。……だが、クロウの事情を知らない彼らにしてみれば、余計な勘繰りもしたくなろうというものなのであった。
「だが、確かめるにはノンヒュームに探りを入れる必要があるぞ?」
「今の時点でそんな危険は冒せんか……」
どうしたものかと呻吟する一同であったが、
「……不充分ながら、一つ代案が無い訳でもない」
「代案だと?」
「うむ。件の糖蜜の販売量や価格を調べ、変動が無いかどうかを追跡調査する。我々の予想どおりなら、ノンヒュームはいずれ件の砂糖を増産する筈で、そうしたら必然的に糖蜜の生産量も増える。ゆえに、糖蜜の販売量や価格の変動を追っていけば、ある程度の絞り込みはできるのではないか?」
――クロウにそんな予定は無く、従って変動が生じる筈も無いのであるが、国務卿たちがそんな事情を承知している訳も無い。なので、
「うむ……」
「随分と迂遠な方法ではあるが……現状ではそれが最善手か」
という事になって、現地のカルコに追跡調査の指令が下ったのであった。
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さて、その命令を受けた当のカルコである。
甘党でもない自分がそう度々菓子店を訪れる理由が無い――と、当初はそう思っていたのであるが……
「……これは……思った以上に合うなぁ……」
〝人それぞれではあるが、辛口の酒のアテには甘いものも悪くない〟――と店員から入れ知恵されたカルコが半信半疑で試してみたところ、少なくとも自分の舌には美味いと思えた。最初に試したのは大胆にも黒砂糖であったのだが、苦労して手に入れたビールと合わせてみたら、想像以上に違和感が無かったのであった。
「……こりゃ、こっちの本命も期待していいか?」
店員が勧めてきたのは、つい先日開発したばかりという、甘さを抑えた砂糖漬けであった。保存できる期間は落ちるものの、果物の風味を残したサッパリとした味わいは、辛口の酒にも合うという触れ込みであったが……
「……いけるじゃないか」
母国から持参した辛口の酒との相性が抜群であった事に、酒飲みとして心底驚愕するカルコ。これは祖国では味わえない組み合わせだ。
カルコは嬉々としてこの件を母国に報告――母国の連中が歯軋りしたのは言うまでも無い――し、今後も店を訪れる上司公認の口実ができた事に、独り祝杯を上げるのであった。




