第二十八章 ヴァザーリ伯爵領 3.第二次ヴァザーリ伯爵領戦~第二夜~
ヴァザーリ戦の第二夜です。珍しく長めです。
新勇者のパーティが待ち構えている教会――の焼け跡――を、再びアンデッドとなった先代勇者が襲ってきた。アンデッドとなった事で敏捷性や即応性、魔力などは若干低下したが、代わりに死を恐れることなく攻撃してくる、文字通りの死兵である。それでも、新勇者と冒険者、それと騎士団――領主の私兵――の奮闘の甲斐あってか、アンデッド勇者たちは追いつめられてゆく。動きの鈍い回復役がまず斬られるが、二つに千切れかけた身体を抱えるようにして引き下がる。その姿のおぞましさに、勇者も騎士も恐れと嫌悪を隠そうとしない。このまま夜明けを待てば、アンデッドたちを討伐できる――そう思い始めた時に、それは現れた。
クロウが真打ちとして召還したのは、ドラゴンの骨――素材として利用したため一部が欠けている――から生み出したスケルトンドラゴンであった。それも……
『のう、クロウよ。あれは何じゃ?』
『スケルトンドラゴンだが?』
『ほう? そのスケルトンドラゴンとやらが、まるで聖魔法を纏っているように見えるのはどうしたわけじゃ?』
『付けた』
『お主はっ! 一体っ! 何をっ! やらかしおったっ!?』
『綺麗ですね、マスター。水晶でできてるんですか、アレ?』
『禍々しいというより神々しいですな』
『聖気を纏うスケルトンって……』
そこに現れたのは、さながら水晶でできたかのような身体をもつスケルトンドラゴン。その身に神々しいまでの聖気と魔力を纏い、悠然と司教を、勇者を、人間たちを、見下ろしていた。
【個体名】なし
【種族】クリスタルスケルトンドラゴン
ドラゴンの骨格が理外の宝玉の力を得て蘇ったもの。魔石の代わりに使われた理外の魔晶石の力により、エンシェントドラゴンに匹敵する魔力を持つようになった。聖魔法を得たためにその骨は光を受けて輝く水晶のような物に変化したが、水晶のように見えてもその堅牢さはオリハルコンを遙かに上回る。
【地位】クロウの命で動くアンデッドモンスター まだ自我は誕生していない
【レベル】不明
【スキル】空間魔法 土魔法 水魔法 火魔法 風魔法 木魔法 聖魔法 闇魔法
竜魔法
『……のう、クロウよ。もう一度聞くぞ。あれは何じゃ?』
『だから……ドラゴンの骨にクリエイト・アンデッドの魔法を使って、元々のドラゴンの魔石じゃショボいから、代わりに魔晶石の宝玉を使ったらあんな感じになって、折角だから見かけに合うように聖魔法を付与して、聖魔法だけじゃ片手落ちだと思って闇魔法も付けて……』
『……もうよいわ。これ以上聞くと、後悔を通り越して懺悔しそうじゃ。お主の辞書に自重の文字は無いのであったな……』
『ご主人様……竜魔法は……ドラゴンの……骨を……使ったから……ですか?』
『多分な。俺は別に何もしなかったし』
(何なのだ、あのドラゴンは? 魔力、いや、あれは聖気か? 力の量が尋常ではない。しかも、スケルトンでありながら、目を奪わんばかりの美しさではないか。あれは魔物なのか? むしろ神の使いのような……。いや、神の使いならば、なぜアンデッドを護るかのように、こちらに対峙しているのだ? なぜ、我らは神の使いと睨み合っているのだ?)
司教の混乱は他の者においても同様であった。
自分たちは何者を相手にしているのか? 神の使いなのか? 神に敵対する自分たちは何なのだ? なぜ、自分たちは神に敵対させられたのだ?
「えぇいっ! 何をしておるのかっ! 早々にモンスターを退治せぬかっ!」
後がないと悟った司教の叱責の声を浴びて、目が覚めたかのようにアンデッド勇者に向かう新勇者たち。しかし、彼らを見る住民の視線には、疑念と不信が混じっていた。
「なぁ、先代の勇者様って、神の使いだったんじゃないのか?」
「今、先代勇者様の後に控えておいでなのは、神のお使い様じゃないのか?」
「だったら、司教様と新しい勇者様は……」
疑惑と困惑、混乱の視線には気づかぬまま、新勇者たちはアンデッドに襲いかかろうとした。しかし、丁度そのタイミングで大地が動き、足を取られた新勇者たちは体勢を崩し、逆に先代勇者たちの攻撃を受ける。
「クソっ! 土魔法だ! あのドラゴンによる支援か!?」
「あれは……神の加護なのか? では、あのドラゴンはやはり……?」
『よ~し、巧いぞ、スレイにウィン。いいタイミングで足場を乱したな』
『いえいえ、この程度のこと、造作もない事でございます』
『はい、主様。これくらい楽勝です♪ いくらでもやれますよ?』
クロウ一味の介入によって、戦況は再びひっくり返る。アンデッド勇者たちがじりじりと盛り返し、新勇者は教会跡に押し戻されていく。
アンデッド勇者たちの攻撃がクリティカルに決まり、新勇者たちが立ち上がる力を失った頃、それまで静かに戦況の推移を見守っていたドラゴンが動く。
おもむろに吹き出したブレスは強力であり、しかし聖魔法の力を纏っているためか死者を出さずに、教会だけをバラバラに吹き散らした。
『よぉし、上出来だ。無用の犠牲者を出さず、ヤルタ教に対する不信感だけを煽ることができた。あのスケルトンドラゴンはなかなかの掘り出し物だったな。では、と。そろそろ退散するか』
『マスター、この陣地、どうします?』
『う~む。折角造ったし、壊すのも少し勿体無いな。このまま休眠させておこう』
教会が跡形もなく吹き飛んだのを確認すると、水晶のドラゴンはアンデッドたちと共に静かに姿を消した。まるで、最初からそんなものはいなかったかのように。
しかし、住民たちの心中には明らかに、ヤルタ教への、そして自分たちへの不信の念が芽生えていたのである。
やっちゃいました。




