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第二百十八章 モルファンの動揺再び 5.再び「コンフィズリー アンバー」(その1)

 モルファン本国に冷房の件を報告したら、入れ違いに本国から〝ノンヒュームたちが秘匿していると(おぼ)しき新種の砂糖の事を探れ。鍵は稀少品の糖蜜にある〟――などという、()く解らない指示を言い渡された、王都イラストリアに残留中のモルファンの公式連絡員――名をカルコという――は困惑していた。



(……そう言われてもなぁ……菓子屋にゃついこないだ行ったばかりだし、そうそう()(びた)る理由が無いんだが……)



 これで菓子店が王都イラストリアにあるのなら、散歩のついでに立ち寄ったという事もできようが、生憎(あいにく)と菓子店があるのはシアカスター、王都からだと馬車で五日はかかる町だ。〝散歩のついで〟などという説明が通る訳が無い。

 どうしたものかと首を(ひね)っていたところで思い出したのは、先日店を訪れた際に眼にして度肝を抜かれた商品の事であった。何の事かと言うと、メロン丸ごとの砂糖漬けというぶっ飛んだ代物の事である。本国へ報告したところ、物見高い上司にそれを買ってくるよう言われた――という事にすれば……

 結構なお値段していたが、それは経費で落としてもらおう。確か冷暗所に置いておけば、最大で半年ほどは()つと言っていた。この冬には母国から使節がやって来る筈だし、その時に(ことづ)けるというなら不自然ではない。……この暑い盛りに買うのはどうかと言われるかもしれんが……その時は上司に命令されたとか言って……いや、素直に引き下がった方がより良いか。そうすれば、少なくともあと一回は訪問の口実ができる。自分としては店を訪れさえすればいい訳だし。


 そんな腹案を抱いて、カルコは再び「コンフィズリー アンバー」を訪れたのであった。

 ちなみに、モルファンの使節一行が店を訪れたのは帰路であり、カルコは王都イラストリアに残っていたので、その時の訪店には同行していない。なので一行が早々にメロンの砂糖漬けに目を付けた事など、カルコには知る由も無かったのであった。



・・・・・・・・



「メロンの砂糖漬けでございますか? 先日お見えになった使節の方々もお求めになられておいででしたが……やはりお国でも珍しいものでございますか?」

「そ、そうか……いや、何しろメロンという果物自体、我が国では珍しいものなのでな。寒いせいで露地栽培が難しく」

「あぁ、成る程……」

「そんな訳で上司が興味を持ったらしい。その……先日求めたものは国として購入した訳で、上司としても()(まま)(つま)むという訳にはいかんのでな」

「成る程」



 成り行きで上司を甘党の食いしん坊にするしか無かったカルコは、叱責を覚悟の上で、この件も報告しておこうと決めた。会話の(はし)から(ほころ)びが出たりすれば、そっちの方が大問題である。



「それで……日保(ひも)ちの件なのだが……?」

「そうでございますね……湿っておらずに冷たい場所に保管しておけば、冬まで()つ事は保証いたします。ですが――お客様の事情に立ち入るつもりはございませんが、急いで買う必要は無いのでは?」



 このメロンの砂糖漬けであるが、当初は広告塔もしくはネタ商品として店に並べたものの、意外に買っていく客が多いので、店としても切らさぬように在庫を管理しているのだという。何なら予約も可能であると聞いて、カルコは躊躇(ためら)う事無くそっちを選ぶ。これで再度の来店の口実もできた。あとは本命の質問だけだ。



「そう言えば……先日は聞きそびれたのだが、糖蜜に二種類あるのに、砂糖は一種類しか置いてないようだが?」



 遠回しな策は弄せず、好奇心丸出しの田舎者よろしく単刀直入に質問するカルコ。この場合はこちらの方が自然だろう。


 そして、カルコの問いに答えて店員が説明してくれたのは――



「成る程……普通の砂糖と違いが無いのか……」

「取引先の話によると、あちらでも栽培が難しく量産に向かない上に、できた砂糖も既知のものと()(ほど)に大きな違いは無いので、今以上の増産に踏み切る予定は無いそうです。ただ、糖蜜の場合はその独特な風味を好むお客様もおいでらしく、細々と生産しているんだそうで。実際に当店でも、こうして少量を仕入れておりますし」



 ――という公式設定であった。実際に「海外の取引先」を「国内の精霊術師(クロウ)」と置き換えれば、ほぼ事実と言ってもよい。なのでカルコの目から見ても、嘘や隠し事をしている風ではない。説明におかしなところが無い以上、カルコもそれを受け容れて本国に報告するしか無かったのであった。

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