第二百十七章 諜報網構築会議 3.フレイからの派生案~野営地~
『野営場所か……』
『確かに、森の近くに開けた場所があったら便利だよな』
『森の動物たちも、間に開けた場所があったら近寄らねぇし……』
『簡単な柵とかあったら便利ですよね。足止め程度にしかならなくても、有ると無いとじゃ大違いですし』
『それならいっそ、小屋とかを建ててやればいいんじゃないのか?』
仮に野良モンスターが襲って来ても、立て籠もれるだけの小屋があれば便利ではないだろうか。そう思ったクロウの提案であったが――
『いえ……ご主人様がお造りになると、小屋というより要塞になりやすんで……』
『騎士団の駐屯地までは不要かと……』
『むぅ……』
安全第一を身上とするクロウが関与すれば、軍事拠点と間違われるような代物が出来上がるだろう。その結果、侵攻作戦の前触れだなどと誤解されては面倒な事になる。冗談でなくそういうレベルのものが出来上がりそうなので、クロウに関わらせるのは避けた方が良い――というのは、眷属たちの一致した意見なのであった。
『……まぁ……森の傍に限らず、野営場所の整備ってなぁ良い案だと思いますぜ』
不本意そうに黙り込んだクロウを宥める――もしくは誤魔化す――ように、ベテラン冒険者のニールが口を開く。
『いきなり木が生えたりすりゃ怪しむ連中も出るでしょうが、野営地整備の一環って事にすりゃあ、済し崩しに受け容れられそうな気もしますしね』
『精霊門って事なら、地下に開いてやる手もあるんじゃねぇですか? 地下なら魔石を埋めても誤魔化し易いんじゃ?』
ニールのパーティメンバーたちも口々にその意見を支持した事で、クロウの意識もそちらの方へ誘導される。
『成る程……精霊たちの活動に便宜を図るだけなら、必ずしも大きな空洞は必要無い。……ダンジョンマジックで隠蔽と秘匿は可能だな』
傍受と録音を魔道具に任せれば、精霊や眷属を常駐させる必要すら無い。それなら、狭い空洞を深い位置に造ってやればいい。最悪でも音さえ届けば充分であろう。
『魔道具――ですかぃ?』
『あぁ。オドラントで似たような状況に陥ってな。その時の反省から開発しておいた』
オドラント付近の調査にテオドラム兵が派遣されて来た事があったのだが、その時は監視カメラやマイクロフォンを設置していなかったため、状況の把握に一苦労したのである。その反省から該当する魔道具を開発し、既にオドラントには配備済みだ。同じ魔道具を持って来れば――データの回収と確認の手間はあるが――省力的な諜報拠点としての活用は可能だろう。
これにより、魔力の流れは街道の並木で確保して、休憩地や野営場所の地下に諜報拠点を設けるという方針が、一気に具体化する事になった。
『まぁ、実際の着手はノックスたちの都合に合わせたスケジュールにする必要があるだろうが』
ノックスたちには国境に次ぐ緑化候補地を探させていたのだが、あろう事か偶然にも「魔像の岩室」というダンジョンの近くまで足を延ばしてしまい、そこを密かに警備していたイラストリア兵にインターセプトされる羽目になっていた。まぁその後で、彼のダンジョンのダンジョンマスターであるモンドを問いつめた結果、「魔像の岩室」とイラストリア王国の間に結ばれた密約の事を聞き出せたのは望外の収穫であったが。
ともあれ、当初予定していた方面の緑化が不首尾に終わったのは事実である。ここで新たな方針を示してやる事は、「緑の標」修道会にとっても悪い事ではない……筈だ。とは言え――
『方針の一つは見えてきたが、ここは念を入れて他の方針も検討しておきたい。……どこにどんな差し障りが潜んでいるか判らんからな』
「魔像の岩室」の件は想定外であったが、テオドラムでも折角形成した木立が伐採されるなどの予想外が生じている。緑化というのはこの国では新奇な行為のようだし、またぞろ何かのアクシデントが生じて、計画が狂う可能性は無視できない。そのためにも計画は複層化して、冗長性を持たせた方が良いだろう。
そんな意図の下に新たな計画案を募ったクロウであったが、予想外の者が手を挙げたのに驚かされる事になる。




