第二百十七章 諜報網構築会議 2.ハンスからの提案~休憩地~
『まぁ、そうだが……何か腹案でもあるのか?』
『腹案と威張れるほどのものではありませんが、人が集まりそうな場所を作ってやって、そこを諜報拠点としては如何かと』
『ふむ……予め安全性を確保した場所を用意する訳か……』
クロウのダンジョンマジックを使えば、オドラントのように秘匿性・安全性を確保したミニダンジョンを確保するぐらい造作も無い。以前のシャルドの廃村では、実際にそれに近いものを造っていたし、ヴィンシュタットの屋敷も維持している。
ただ、あれらは抑人の立ち寄りを前提とした設計にはなっていない。
街中に人が出入りする場所を設けるとなると……
『……テオドラムの向こうを張って、酒場でも開くというのか?』
確かにビールを餌にすれば、噂話を提供してくれる酒場の一つや二つはあるだろう。無いなら自分たちで開けばいい。だが、個々の酒場に卸せるほど、ビールの生産量にゆとりは無い。ドランの村に出させるのは筋違いだし、クロウが造っているビールにしても――配下が盛大に消費するせいで――そこまで余裕は無い。
実現性を危ぶむクロウであったが、
『あ、いえ、そうではなくて……休憩所などどうかと思いまして』
『休憩所?』
ハンスが提案したかったのは、嘗て日本の主要街道に設けられていた一里塚のようなものだったらしい。クロウはこれでも歴史学科の出身であるから、江戸時代に整備された一里塚には榎や松などの木が植えられて、旅人に木蔭と休み処を提供していた事ぐらいは知っている。
同じようなものがこちらの世界にも一応あるのだが、きちんと間隔を置いて整備されたものでもなく、目印の石が置いてあるだけの場所も多いのだという。
そんな場所に気持ちの好い緑陰を設けてやれば、旅人はそこで休む事になるだろうし、休憩の合間に雑談の一つもするだろう。同時に木蔭を精霊門として活用できれば、会話の盗み聞きも容易ではないか。
『ふむ……』
それなりの規模の木立でなくては、精霊門を開けるほどの魔力の流れは望めないだろう――等、改善すべき部分は多々あるが、議論の叩き台としては悪くない。
『どう思う?』
クロウが配下一同に意見を訊ねたところ――
『一本や二本の木が植えられたぐらいじゃ、精霊門を開くには小さ過ぎるわよ?』
『うむ、それなりの規模の木立でのぉては、精霊門を開くだけの魔力は貯まらんじゃろうな』
『そこはご主人様の魔石を使うとか……』
『どんな魔界スポットを召喚するつもりなのよ……』
『ご主人様の魔石だと、危険過ぎなくないですか?』
『精霊門は……無理としても……以前に……ご主人様が言われていた……魔力の通り道を……形作るのには……使えるのでは……?』
『あぁ……回廊って仰ってましたっけ』
『地下にぃ、隠れ場をぉ、造るのはぁ?』
『あぁ……確かに、精霊たちの移動経路には使えるわね』
『お待ち下さい、お歴々。今議論すべきは諜報拠点であって、精霊門とは別に考えるべきでは?』
クリスマスシティーが注意を発した事で、発散しかかった議論が纏まりを見せる。
『……確かにな。精霊門が開けるくれぇの木立が短期間でできたとなりゃ……』
『どうしたって人目を引くわな……』
『野良モンスターも寄って来るかもしれないわね』
『盗賊どもの隠れ場所にもなりかねん』
『そうすると、野営場所としては難しいですか』
冒険者としての視点からカイトたちがコメントしたが……最後のフレイの発言が、新たな物議を醸す事になった。




