第二百十五章 「緑の標(しるべ)」修道会 6.王都イラストリア 王国軍第一大隊(その1)
「おぃウォーレン、またぞろおかしな連中が、こんだイラストリアに出たってぇじゃねぇか」
兵舎に入って来るなりウォーレン卿を捉まえて、面倒そうな話を吹っ掛けるローバー将軍。王国軍第一大隊では日常的な光景である。
「耳が早いですね。将軍が聞いたのはどのネタです?」
「どのネタってお前……幾つもあんのかよ?」
「本質的には一つなんですけどね。複数のルートから証言が得られているのですよ」
「複数ねぇ……儂が聞いたなぁ、妙な風体の連中が、『魔像の岩室』に接近してたって話だが?」
どうやら将軍が耳にしたのは、「緑の標」修道会の偵察班が、それと知らずに「魔像の岩室」へ接近して警告を喰らった件のようだ。
「選りに選って『魔像の岩室』にちょっかい出そうたぁ……Ⅹのやつぁどこまで承知してんだ?」
「その前にまず、問題の連中がⅩの一味なのかという点を先に検討しませんか?」
「あ? そうじゃねぇってのか?」
「その可能性もあるという事です。第四大隊からの報告はご覧になりましたか?」
「いや……そっちはまだ目を通してねぇが……何を言ってきたんだ?」
イラストリア王国軍が、何故こうも「魔像の岩室」に頓着するのかというと……実は表にできない裏事情というものがあった。
端的に言えば、「魔像の岩室」のダンジョンマスターであるモンドは、イラストリア王国と密約を結んでいるのである。王国はこのダンジョンを討伐しない代わりに、ハイラント高原に敵軍が侵入した場合には、ダンジョン側が敵軍の阻止協力する約束になっているのだ。
ちなみに「魔像の岩室」とは、壊れたゴーレムの廃棄場所がダンジョン化したものである。ダンジョンシードが廃棄ゴーレムに着生して成長したため、ゴーレムとして活動できるようになった珍しいダンジョンであった。まぁ、今となってはダンジョンコア自身が討って出るような事はせず、戦闘は麾下のゴーレムたちに任せているのだが。修復した廃棄ゴーレムを自在に操る事ができるだけでなく、新たにゴーレムを生み出したりもできるのだ。
そういった特質から、或る程度大規模な兵力の侵攻に対しても遅滞戦術を演じる事が可能であると考えられていたため、イラストリアが密約を結ぶ理由はあったのである。
ちなみに、この件についてはモンドも沈黙を守っている。……いや、いたのであるが、どうやらクロウの追及を受けて口を割りそうな気配であった。
閑話休題、
「第四大隊が接触させた者の報告によると、連中は「魔像の岩室」の事を知らなかったようです。ダンジョンがあると聞いて心底驚いていたようだとか」
「……惚けてるんじゃなくってか?」
「相応に観察眼の鋭い者を差し向けたそうですから、まず信用して構わないかと」
「ふん……」
何やら面白くなさそうに鼻を鳴らしたローバー将軍であったが、そのまま目線で話の続きを促す。
「『魔像の岩室』への偵察隊か何かと思ったんですが、どうも違うようです。まぁ、本当に偵察が目的なら、揃いの仮面なんかを着けて人目を引く筈が無いですしね」
「ヰーの連中がいただろうが」
益々面白く無さそうな口調で異議を唱えるローバー将軍。どうやら、将軍としてはこの件もⅩの仕業と見做したいらしい。……いや、真実そのとおりではあるのだが。
「仮面という点では『シェイカー』に一脈通じるものがありますが、現在のところ共通点はそれだけです。無罪放免とはいきませんが、少なくともⅩ以外の可能性を排除してかかる訳にはいきません」
「ふん……まぁ、面倒臭ぇが解らなくもねぇ」
「続けます。彼らはフルックという小村に堂々と拠点を築いたようです。フルック村に立ち寄っている行商人を捉まえて話を訊いたところ、荒廃地の緑化をしているというのは本当のようです」
「……ちょっと待てウォーレン……〝緑化〟ってなぁ何だ? どっからそんな話が飛び出して来た?」




