第二百十五章 「緑の標(しるべ)」修道会 4.予定された邂逅(その1)
『不審者の接近を感知しました』
『ん? ……確かに〝不審者〟だな。……そのまま監視を継続。一応、王国にも報せておけ』
『諒解』
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「隊長、『岩室の主』から連絡です。不審な者が接近しつつあるとの事です」
「何? ダンジョンへの侵入者か?」
「いえ、今のところは接近しつつあるというだけだそうですが……何と言いますか……送られてきた映像を見た限りでは、結構な〝不審者〟ではないかと……」
「一体何を言ってる。……成る程、確かに〝不審者〟だな」
「どうしましょうか? まだ距離は充分にありますが……」
「むぅ……『岩室の主』がこっちへ報せて寄越したという事は、こっちで正体を確かめろという事なんだろう。適当な者を派遣して、正体を探らせろ。あと、一応本部にも連絡しておけ」
「諒解しました」
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どこかの二ヵ所ほどでそんな会話が交わされている頃、「緑の標」修道会の予備調査班は、のんびりと田舎道を北上していた。その先に何があるのかも知らず。
「お~いぃ、あんたらぁどこへ行くつもり……って……あんたら一体何者だ?」
行く手の方から歩いてきたベテラン冒険者らしき男が声をかけ、そして……近付くにつれて驚いたような声を上げた。
それも無理はないだろう。
何しろこちらの一行は、揃いも揃って異様な服装に身を包んでいるのだから。
その一行は白を基調としたフード付き長衣を纏っており、一見すると聖職者のように見えるのだが……ある一つの装備が決定的にそうでない事を主張していた。仮面である。
顔全面を覆うようなものではなく、目の周りを覆うタイプであるが、それだけで人相が定かでなくなっている。……その代償に、怪しさの方が天井値を更新する勢いで跳ね上がっているが。
「やぁどうも。冒険者の方ですか?」
「あ、あぁ……そうなんだが……あんたら何者だ?」
「これは申し遅れました。自分たちは『緑の標』修道会の者です」
「はぁ? 『緑の標』? ……そんな修道会、あったか?」
「有志を募って最近結成したばかりなのですよ。この仮面がご不審の素なのでしょうが、これには事情がありまして」
――と、ノックスは自分たちの結成事情――の設定――を説明していく。既に何度かこなしているだけあって、説明も手慣れたものである。
「……はぁ……宗派を越えた有志の集まりで、同門のお偉いさんに目を付けられねぇように顔を隠してるねぇ……」
「遺憾ながら、我々の主張には共感戴ける事も多いのですが、宗門を越えての活動という点に難色を示される方が多くてですね」
「はぁ……」
「抑の切っ掛けとなったのは、ヴァザーリにおける講演でした。種族を越えて手を結ぶ事の大切さを説かれたマーベリック卿の」
「あぁ……イラストリア王国王立講学院の学院長だったっけな」
「お詳しいですね。ひょっとして貴方もお聴きになったので?」
「ん? あ、いや、俺は学が無ぇんで聴いちゃいねぇんだが、知り合いがちょっとな」
「そうでしたか。……あの講演は衝撃的でした。同輩にも卿の主張に共鳴する者は多いのですが、いざ宗門を越えての協力を唱えた途端に、怖じ気付いてしまいましてね」
「お、おぉ……大変なんだな……」
「全く……種族を越えた協力には賛成するくせに、実際に宗門を越えての協力となると、途端に尻込みする者ばかりで……嘆かわしいにも程がある」
同輩や教団上層部への不平不満をぶち上げるノックスに、冒険者らしき男も閉口していたようだが、
「……あんたらの素性は判ったけどよ、どこへ行こうとしてるんだ?」
「いえ、特に目的地がある訳ではないのですが……会の趣旨に沿って活動すべく、どこかに荒廃地が無いかと探している訳です」
「その……緑化の対象地ってやつだな?」
「えぇ、そうです」
穏やかな笑みを浮かべて語るノックスは――仮面という怪しげなものを装着しているにも拘わらず――人品卑しからぬ人物のように見えた。
しかし――と、冒険者らしき男は考える。問題は彼らが向かおうとしている場所だ。この先にあるものを承知しているのか?
「あー……悪いがな、この先の荒れ地にゃ立ち入らねぇでほしいんだわ」




