第二百十五章 「緑の標(しるべ)」修道会 3.クロウ(その3)
『最初に国境線の緑化を手がけたのは、フルック村からの要請に基づいたとして……』
『どうしたの? クロウ』
発言を中断して考え込んだクロウに、訝しげなシャノアが問いかけた。そして、その問いに対するクロウの答えは、
『いや……今気付いたんだが……〝普通の修道士〟というのは、何日間も山に籠もったりは……しないんじゃないのか?』
『『『『『あ……』』』』』
やっちまったという表情の一同。
『……どうせ緑化には魔法を使っておるんじゃ。大人数の魔法でごり押ししたとか何とか、言い繕うしかあるまい』
『冒険者崩れが……参加しているという……設定でも……いいかも……しれません』
『ノンヒュームが混じってると、思われたりは? マスター』
『耳が見えるから大丈夫じゃない? あのマスク』
『エルフ耳でもケモ耳でもないですもんね』
キーンがどこから「ケモ耳」などという知識を拾ってきたのか、頭を抱えたくなったクロウであるが、今はそれより先に検討すべき問題がある。……この件は後で追及しよう。
『そうすると……他にフルック村で話に出た場所か、フルック村と国境線までの往き来で目に付いた場所という事になるな』
徐に地図に目を遣ると、フルック村から国境線への途中にあるのは
『リーロットか……』
ヴァザーリの凋落からこっち、ヴァザーリに代わる……と言うか、その機能の一部を肩代わりする流通拠点として整備されているのだという。
『でも精霊たち、別にリーロットに用は無いわよ?』
――そうシャノアが言えば、
『付け加えるなら、リーロットのように人の動きの活溌な場所は、それなりに魔素が発生・滞留しますからな。魔力循環の復旧という点でも、特に急ぐ必要は無いのでは』
――と、こちらはネスの発言である。
(ふむ……魔力循環という点で言うなら、国境線沿いの森が孤立しているのが気になるんだが……それを言い出すと大事になるな。街道を跨いで魔力の回廊を形成するとなると、フルック村から街道までの道筋に街路樹でも植える必要がある。……間違い無く大仕事になる。できたてホヤホヤの修道会の手には余るな……)
熟練の果てにクロウが下した決断とは、
『――よし。ノックス、場所の選定は修道会に一任する。修道会の視点ってやつで、緑化の候補地を探してくれ』
まさかの丸投げであった。
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「そう言われてもなぁ……」
――と、頭を抱えているのは、クロウに候補地探しを押し付けられた「緑の標」修道会の面々である。
「……修道会の視点なんぞ解らんし……ここは一つ、フルック村に拠点を構えた者として考えてみるか」
「ふむ……フルック村に来たばかりの者が緑化候補地を探すとなると……目の前の道を進むのが当然――か?」
「そうなるだろうな、うむ」
――という具合に、ここは一つリーロットから村の西を通って北上する道を辿ってみようと衆議一決したのであるが……これが新たな困惑をもたらす事になった。




