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第二百十四章 チョコレート・ゲーム 6.オドラント

 ノンヒュームたちがチョコレートの試作絡みでアレコレと酷い境遇に陥っている――そして、自分たちの浅はかさを呪っている――頃、大元凶たるクロウもオドラントで頭を抱えていた――完全に想定外の事態に直面して。



『いや……確かにお前の言いたい事も解るんだが……しかしなぁ……』



 〝偉大なる精霊術師〟にして〝世界の攪乱者〟であるクロウを()くも困惑させているのは何者かというと……オドラントの地下に植わっているシュガートレントなのであった。


 オドラントの地下農場で栽培されている作物は、クロウが地球から持ち込んだ〝異世界の〟肥料の効験よろしきを得て、何れも立派なモンスターと化している。つい先頃農場に追加されたローク豆を始めとするフルーツの苗も、例によってモンスター化を済ませている。

 これによって成長速度も収量も常識外れの規格外となっているため、クロウ一味はその問題には目を(つむ)っていたのであった。オドラントから出さなければ問題無いし。


 そんなモンスター作物の中にあって、一体だけ異彩を放っていたのがこのシュガートレントである。元になったのがトレントというモンスターの体組織であったせいなのか、早々に自我を獲得しており、クロウを筆頭とする一味との意思疎通も問題無くできるため、実はこの「農場」における世話役のような立場を任されていた。


 そして――そのシュガートレントが、クロウたちの多忙な境遇を見て、協力を申し出てくれたのである……文字どおりの意味で「献身的」な。



『確かに、現状でチョコレート製作のネックになっているのがクリームの供給なのも、俺の世界には動物性のクリームだけでなく植物性のクリームがあるのも、そして……こちらで植物性クリームの生産が可能になれば、問題の多くは解決できるのも事実なんだが……』



 例によって例のごとくと言うか、予定調和的なお約束と言うか、クロウが日本で売られているクリーミングパウダーの事を漏らしたのが発端であった。


 クロウの認識では、チョコレートであれココアであれ、お供とすべきはミルクであって植物性のクリーミングパウダーではない。しかも、パームオイルなどからクリーミングパウダーを作る製法は、クロウことラノベ作家の(くろ)()先生と(いえど)も知悉してはいない。なので、何の警戒心も抱かずにポロリと口を滑らせたのである。

 これを聞いた眷属たちが、現状のミルク問題を解決する手立てにはならないかとお伺いを立てたのであるが、新たに油脂作物の栽培と搾油・製油の問題を抱え込むだけだとクロウに(さと)され、この時はそれで収まったのであるが……



『……(そもそも)だ、お前が地球産のクリーミングパウダーを取り込んだとして、自分でそれを作れるようになるのか?』



 どこからか話を聞き込んだシュガートレントが、前述の内容を試させてほしいとクロウに上申したのであった。


 シュガートレントの言い分としては――自分は(かつ)てこの地に()ったトレントの組織に異世界(ちきゅう)の「サトウキビ」なる植物の組織を融合させて生み出された存在である。そしてその事によって、砂糖を生み出す能力を獲得できた。

 ならばもう一歩踏み込んで、「クリーミングパウダー」なるものを取り込めば、今度はそれを産生できるようになるのではないか?

 クリーミングパウダーの製造には油脂が必要だそうだが、元々トレントは上質のオイルを生み出す事で人間に狙われた過去がある。シュガートレントとなった今でも、トレントオイルの生産は可能である。

 勿論、その結果精糖能力を失ってしまっては本末転倒だから、試みるのは挿し木によって殖やした分体の方で構わない……



『いや……しかしだな……』



 何か人体実験めいていると嫌がるクロウに対して、これは新たなステップに進むための挑戦であると主張するトレント。元がトレントのせいか、レベルアップや進化には貪欲なようだ。



 〝それに〟――とトレントは駄目押しを図る。

 この方法で首尾好くクリーミングパウダーが得られたならば、今度は乳化剤とやらの生産も視野に入れる事ができるではないか?



『うぅむ……』


 クロウが試作した時には錬金術で強引に乳化したのだが、製品化を考えるならさすがにこの方法は推奨できない。クロウは錬金術で大豆か何かから抽出し、その手順を改めてマニュアル化する事を考えていたが、来年早々に予定されているイラストリアのパーティでチョコレートをお披露目するとなると、試作の時間が足りなくなる(おそれ)がある。乳化剤ができるまで試作が始められないというのでは、これは完全に間に合わないだろうし、ノンヒュームたちに錬金術での乳化処理を押しつけるのは、もはや虐待としか言えないであろう。

 最終的には大豆レシチンの製法を確立するにしても、それまでの繋ぎとなる乳化剤の入手は必要ではないか……



 それに――とシュガートレントはなおも(ささや)く。


 チョコレートの試作が滞り無く進めば、チョコレートだけでなくチョコクリームやパフェ、チョコプリン、果てはチョコスプレッドなども試してみる事ができるのではないか……?



・・・・・・・・



 ――後日、オドラントの地下農場に新たなモンスターが加わった事を追記しておく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 己の進化と成長に貪欲なシュガートレント。 そのうち色々な新種を産み出しそう。 [気になる点] 新しい甘味ができたら、また某アンデッドもとい、マリアさんがダイエットで大騒ぎしそう。 [一言]…
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