第二百十四章 チョコレート・ゲーム 2.転がり出す運命
「ホルン……連絡会議としては、イラストリアの言うモルファン歓迎パーティー、そこでのお披露目も視野に入れているのか?」
ホルンの答は短く簡明なものであった。
「一応は」
ふむ――と頷いたクロウは思案に沈む。実際にパーティの席でお披露目するかどうか、これにはイラストリア側の思惑も絡んでくるので簡単には言えないが、仮にそうなった場合を考えると……
「ただなぁ……間違い無く酷い事になるぞ。俺たちお前たちだけじゃなく、イラストリアもだ」
「……なりますか?」
「なるな。間違い無く」
地球世界の歴史を振り返るまでも無い。
甘味に飢えたこの国に、一連の砂糖菓子を投げ込んで騒動を起こしたのが自分たちである。その熱狂もさめやらぬうちにチョコレートとココアを投入する……収拾が付かなくなる未来しか見えない。
原料の不足が解消されていない現状では、充分な量を供給するのは物理的にも無理なのであるが、人間どもがそれで納得するか? しないだろう。下手をすると、ノンヒュームによる独占許すまじと、対立が先鋭化する虞もある……
クロウがそこまで――悲観的な未来を――考えたところで、
「ですが……そうだとしても今更では?」
「ふむ?」
ホルンの身も蓋も無い指摘を受けて、クロウは再び考え込んだ。
チョコレートとココアの投入によって、クロウの危惧は高確率で現実のものとなるだろうが……それは現状をどう変えるのか?
確かに、人間たちの菓子熱を煽る事にはなるだろうが、逆に言えば煽るだけで、新たな騒ぎを生み出す訳ではない。今でさえクロウの懸念が現実となりそうな勢いなのだ。ここで一品二品を増やしたところで、大勢に影響は無いのではないか? いや、寧ろ投入する事で、ノンヒュームの力量を世に示す好機と言えるかもしれぬ。それは抑止力として機能するかもしれないではないか。
(……ふむ……どうせ酷い事になるなら、一枚でも手札を増やしておいた方がマシか……)
残る懸念はノンヒュームたちの過重労働であるが、当の彼らがこの話を持ち出したのだ。その覚悟はあるとみるべきだろう。承知の上で茨の道に踏み込もうというのなら、クロウとしても止める理由は無い。と言うか、チョコレートとココアが早めに量産できるのなら、クロウとしても眷属たちとしても、その方が好いに決まっている。
ネックとなっているのは材料つまりロークパウダーであり、その原料となるローク豆の生産なのであるが……
「……だが、これは本当に供給の目処が立っていなくてな……」
オドラントでは漸く苗が育ち始めたところである。禁断の肥料まで与えているのだから、成長するであろう事は疑っていないが、実を着けるのがいつになるのか判らないのも事実である。
製法を教えるに吝かではないが、それを実戦投入できるかどうかは別問題。その点は弁えてもらわないと――
――クロウがそう言いかけた途端、まるで見計らったかのようなタイミングで、オドラントから連絡が入った。
モンスター化したローク豆が実を着けた――という報せであった。




