第二十七章 モロー 2.囮の検討
クロウたちは身の安全を確保するために知恵を絞りますが……
モロー近辺――できれば迷宮から離れた位置――に王国の注意を引くにはどうすればいいか。今回の眷属会議の議題はこれだ。
『王国の注意がモローに集まっている以上、これを活用しない手はない。適当に尤もらしい理由をあてがっておけば、王国は勝手にモローの地を重要警戒地域に加えてくれるだろう。その分俺たちは安泰だ。で、どういう理由をでっち上げるのがいいか、何か知恵を出してくれ』
『モローの地に……使えそうな……ネタが……ありますか?』
『ロムルス、レムス、何か無いか?』
『旧ダンジョン内に遺跡がある他は、小さな金鉱があったのと……あとは少しばかりの含油層があったくらいですか』
『含油層……ああ、迷宮の罠に利用したやつか』
『遺跡はぁ?』
『いつ頃のものだ? 古代超文明とか何とか、ネタに使えそうなものか?』
『古代超文明? いえ、ありきたりの遺跡ですよ? 土器程度ですね』
むぅ、その程度では王国にちらつかせる餌として微妙だな。
『あ、そう言えば、私たちの迷宮から少しずれた場所に地脈がありますね』
地脈?
『水脈や鉱脈と似たようなものですが、大地の気が流れているのですよ』
そうか……水脈と似たようなものか。ファンタジーではもっと大したもののように扱われる事が多いんだが……。
『その、地脈というのは珍しいのか?』
『いえ、ありふれてはいませんが、そこまで珍しいわけでもありません』
……ふむ、それでは餌としては今ひとつか。
『他に何か使えそうなネタを知っている者はいないか?』
『あ、主様、エルフに聞いてみてはいかがでしょうか?』
『エルフか……。折を見てホルンに聞いてみるか』
その「折」というものはわりと早く訪れた。緊迫した様子のホルンから、至急会いたいという連絡があったのだ。
モローでの王国軍の活動を認めてから一週間ほど後の事だった……。
・・・・・・・・
「緊急のようだったが、面倒な話か?」
「遺憾ながら……はい、その通りです」
「なら、少し待ってくれ。面倒な話の前にこちらの用を済ませておきたい」
そう言って、モローの付近について何か知っている事がないか聞いてみた。
「モローですか? 別段これといった話は聞きませんが……」
「遺跡があると聞いたが?」
「あぁ、確かに小規模な遺跡がありました。洞窟の中にあったそうですが、私が子供の頃にその洞窟がダンジョンになったため、入る機会はありませんでした。尤も、少し前に討伐されたと聞きましたから、今なら入る事ができるかもしれません」
うん、知ってる。
「洞窟の遺跡以外には何もないのか?」
ホルンは『何でそんな事を聞くのか?』と言いたげな表情でこちらを窺ったが、『いいから答えろ』という視線で返答を促す。
「それ以外にといいますと……あぁ、盗賊の財宝の話がありましたな」
「盗賊の財宝?」
「少し長い話になりますが……実はモローから東南東に少し行った辺りには昔栄えた町の伝説がありまして、物好きがそこを掘ったところ実際に遺跡が見つかったのですよ。発掘の結果かなりな発掘品――財宝と言ってもいいような物が見つかったのですが、遺跡の一部は長い期間にわたって盗掘――持ち主がいるわけでもないのにこういう呼び方をするのはどうかと思うのですが、考古学者はそう主張しています――を受けていた痕跡がありました。ところが、盗掘されたとおぼしき財宝が見つかっていない――裏社会の方でも見つかっていないそうです――ため、いまだどこかに隠されているのではないかという話になりました」
ほうほう、面白い話だ。ホルンはちらりとこちらを見るが、頷いて話を続けるよう促す。
「……そこで注目されたのが昔モローの山を根城にしていた盗賊でして、その盗賊が集めた財宝がどこかに眠っているという、まぁ与太話の類ですが、その伝説と件の盗掘品の行方が結びついた結果……」
「盗賊のお宝と一緒にどこかに眠っている、という話になったわけか」
「はい。一頃は宝探しに熱中した者も多かったそうですが、何も見つからなかったためにいつしか下火になり、今では憶えている者もいないでしょう」
「モローの金鉱とその伝説には、何か関連があるのか?」
「いえ。強いて言えば、金鉱があった事が盗賊の財宝の噂に信憑性を与えたという事くらいでしょう」
「……なるほど、興味深い話だった。では、面倒な話というのを聞こうか」
「ヴァザーリ伯爵領の冒険者がヤルタ教の新たな勇者に認定されました。近いうちにエドラの獣人村を攻めるものと思われます」
うん、確かに厄介な話だ。囮と財宝の話は一旦棚上げかな。
新たな面倒事がやって来たようです。




