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第二百十三章 名も知らぬ遠き土地より流れ着く……@船喰み島 4.試作の決定

『……チョコレートって何よ? あたしそんなの食べてないわよ!?』

『あぁ……そう言えばシャノア(おまえ)には食べさせた事が無かったか……』



 眷属(けんぞく)たちはクロウの振る舞いに(あずか)る形でチョコレートを食した事も何度かあるが、クロウと知り合って間が無いシャノアは、生憎(あいにく)とその機会を逸していた。これはクロウの隔意などではなく、純然に間が悪かっただけなのであるが……自分だけが食べていないというのは事実であり、また、自分だけが()け者にされたような気がするのも事実なのであった。同輩の精霊たちも同じく食べていないという事実は、シャノアにとって何の慰めにもならなかったようである。……()して、キーンが上から目線で――註.シャノア視点――気の毒そうにチョコレートの美味を、()()(さい)穿(うが)って説明するに及んでは。



『クロウ! あたしも、その「チョコレート」というのを食べるわよ!』

『いや……だからなシャノア、あれはこちらの世界には無いみたいだから、そう右から左には手に入らんぞ』



 提供するに(やぶさ)かではないが、それは一旦マンションに帰ってからだ。確か買い置きは無かったと思うから、コンビニかどこかで手に入れて……などと思案していたクロウであったが、お姫さま(シャノア)のご下命はそれを許さなかった。



『そこまで待ってられないわよ! この……何とかいう豆から作れるんでしょ!? だったら今すぐ作ってよ!』

『いや……作れって言ってもな……』

『どうせクロウの事だから、作るのは決まってるんでしょ? だったら何も問題無いじゃない!』


 

 ――無い訳がない。


 第一に、ここにあるのはローク豆だけで、それも充分とは言えない量でしかない。それ以外の材料は(もと)より、道具も何一つ無いのである。これでどうやってチョコレートを作れと言うのか。



『そんなのは……クロウのダンジョンマジックか錬金術を使えば、どうにでもなるじゃない』

『いや……チョコ作りというのはどう考えても、ダンジョンマジックの守備範囲じゃないだろうが。それにだな……』



 第二に、原材料(ロークまめ)からチョコレートを作り上げるとなると、それ相応の時間がかかる。カカオの場合はカカオ豆を醗酵させて変質させるという工程が必須なのであるが、幸か不幸かこのローク豆では、そのプロセスは省略できそうな様子である。とは言っても、細かな粉に()いたり脂肪分を加えたり融かして混ぜたり……などという作業を(こな)すとなると、それ相応の時間がかかるのは避けられない。



『だからな、今すぐ大車輪で取りかかったとしても、すぐさま出来上がるという訳にはいかん。それくらいなら、地球(むこう)のコンビニで調達した方がずっと早いぞ?』

『う……』



 これだけでシャノアの説得には成功したようだが、実は第三の、しかも最大の問題点が残っていた。



(そもそも)の話として、俺はチョコレートの作り方など知らんのだがな……)



 クロウことラノベ作家の(くろ)()先生は、(かつ)て作中でバレンタインのネタを扱った事があり、その時にチョコレートの作り方を調べた事がある。しかしそれは、素材として販売されているチョコレートを()(せん)で溶かしてどうこうというもので、カカオパウダーから作るレシピなどは使わなかった。……いや、話のついでと言う事で、そういう知識にも目を通すぐらいはしたのだが。


 そして、ここからが大事なところだが、そういった情報を目にした事はあるのだが、実際にチョコレートを作った事など一度も無い(・・・・・)


 なのに――である。



(ふむ……どのみち、作れるかどうかを試す必要はある訳だしな。シャノアの言うとおり、錬金術で運試しをするのも、悪くないかもしれん。駄目なら駄目で、代替策を講じる必要があると判る訳だしな……)



 ――などと、(ろく)でもない事を考えるに至っていた。


 ()くして、ネットで拾った知識の他は錬金術とダンジョンマジックだけが頼りという、(およ)そショコラティエが聞いたら頭の血管がぶち切れるような暴挙に、敢然として手を着けるクロウなのであった。知らないという事は怖ろしいものである。



(やれやれ……クロウの世界では〝信じる者はすくわれる〟――とか言うそうじゃが……自分ではなく運命の足下(あしもと)(すく)いかねんのがあやつじゃからな。はてさて、どうなる事やら……)

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