第二十七章 モロー 1.王国軍の迷走
盛大に勘違いしている王国軍の、モローでの――いささか頓珍漢な――動きになります。
『王国軍らしいのがモローをうろついてる?』
クレヴァスのダンジョン防衛計画が順調に進む中、何か目新しい情報はないかとダンジョンコアたちに念話で連絡を入れたところ、妙な話が伝えられた。
『お前たちの迷宮を探ってるんじゃないのか?』
『いえ、そちらの方は冒険者たちが時々やって来ます。決して中に入ろうとはしませんけど。洞窟外にも領域を広げていますから殺ろうと思えば殺れるんですが、気づかれぬのが第一との事なので見逃しています』
『あぁ、冒険者たちへの対処はそれでいい。しかし、それじゃ王国軍の兵士とやらは、一体どこで何をやってるんだ?』
『それが……どうもはっきりしません。……どうも本人たちもよく解っていないような感じで……』
『なんだそりゃ?』
ロムルスとレムスに聞いてみると、兵士たちは殊更何かをするでもなく、ただ彼方此方をうろうろきょろきょろと歩くばかりであるという。いや、連中一体何がしたいんだ?
『何をというのは判らんにしても、何処を探しているように見える?』
『それが……』
こちらも特定の場所をどうこうという気配はなく、モローの近くをそれこそ万遍なく彷徨いているらしい。強いて共通点を挙げるなら……
『迷宮付近には近づかない、か』
『はい』
『その通りです』
してみると、やつらの狙いはダンジョンじゃない。しかし、ダンジョン以外に何が……いや、魔石珠があるか。……しかしあれなら拾った場所は特定できる筈。あちこち彷徨く必要は無い筈だ。……駄目だな、いくら考えても理由が解らん。こう言う時は当人に聞くのが一番だな。
『ロムルス、レムス、昼間だがケイブバットを飛ばせるか? もしできるなら気づかれないようにして、近場を彷徨いている連中の会話を盗聴しろ』
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最初に、レムスが旧ダンジョン跡を徘徊している一分隊の会話を聞き出した。
「分隊長~、俺たちゃ一体何を探してるんです?」
「貴様、さっきから何遍同じ事を聞くつもりだ?」
「聞きたくもなりやすよ。『何か怪しい物があれば報告しろ』って、小隊長は言いやすがね、怪しい物ってぇのが何なのか判らなけりゃ、探しようが無ぇじゃありやせんかい?」
「だから……とにかく怪しい物なんだよ。お前らもだてに兵隊の飯食ってんじゃ無ぇだろうが。いいからグタグタ言わずに探せ」
「しかし分隊長、ダンジョン跡にあるものなぞ、自分にはどれもこれも怪しく見えるでありますが?」
「コールの言うとおりですぜ、分隊長。一体上の方は何を考えてこんな曖昧な命令を出したんですか?」
「……ここだけの話にしろよ? 上の方が気にしているのは『何か』じゃなくて此処、『モロー』って場所の方のようだ。モローの辺りに何か普通でない物があるんじゃないかってのが、上の方の考えらしい」
「……新しくできたダンジョン以外に、ですか?」
「そうだ。俺にはこれ以上の事は言えん。解ったら何でもいいから怪しそうな物を片っ端からを探せ。当たりかどうかは小隊長殿が判断して下さる」
「ははっ、そいつぁいいや。疑わしきは~ってやつで、とにかく手当たり次第に拾い集めてみますか」
・・・・・・・・
続いて、ロムルスが放ったケイブバットが、山の北側――ダンジョンやモローの町があるのとは反対側――の麓にいた分隊の会話を拾ってくる。
「……それじゃ、他の分隊も何だかよく解らんまま動いてるってことで?」
「あぁ、新しいダンジョンが一度に二ヵ所も出現した以外にも、でっかい宝玉やらドラゴンの吠え声やら、モローの辺りじゃ妙な事ばかり起こってるらしい。それで、この辺りを探ってみようって事になったようだ」
「で、分隊長殿、何で自分たちゃ山の裏っ側を彷徨いてるんで?」
「一つ、ドラゴンは北側、つまり山の裏側からモローに向かってきたらしい。二つ、なのに山の北側を調べようって言い出すやつはいなかった。三つ、ダンジョンが何か悪さをしても、山の裏側までは追ってこないだろう」
「最後のやつが本音ですかい。いつもながら感心させられますな」
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俺たちは黙って兵たちの会話を聞いていた。
『王国軍はモローに目をつけたか……。お前たちにとばっちりが行きそうだな』
『大丈夫です。万一の場合はクロウ様に戴いた要塞砲もありますし』
『それに、私たちが注意を引けば引くほど、クロウ様の方は安全ですよね?』
『お前たちばかりを危険な目に遭わせるわけにはいかん。とはいえ、王国軍もどうしたらいいか判っていないようだな。今のうちに善後策を練るか……』
第二次防衛計画の達成も急がねばならんな……。
もう一話投稿します。




