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第二百十章 モルファンの動揺 4.甘党たちの驚愕(その3)

 (そもそも)この国には、「駄菓子」に相当するようなカテゴリーが存在しなかった。かと言って、〝子供向けの甘い(・・)菓子〟――だなどと言ったら、国を挙げてのお叱りを(こうむ)りそうな雰囲気があった。とりあえず、〝作るのにあまり手がかからない菓子〟――という説明で辻褄(つじつま)を合わせたのであった。ただし飴については、見栄えが良いという事で、富裕層向けにコンフィズリーショップで扱う事になっている。

 そこで店舗名であるが――同じ系列である事が判る方が良いだろうという意見と、しかしそれでもコンフィズリーショップとの差別化は必要だろうという意見が出たため、店名に一工夫すべきかとなったのである。

 最初、コンフィズリーショップの貴石・宝石に対して、こちらは金属ではどうだろうかという案が出たのであるが……



〝「駄菓子屋 鉄」とかに、なっちゃぅんですかぁ?〟

〝どちらかと言うと、一杯飲み屋のようでございますな〟

〝或いは、「金さんの店」――とか?〟

〝……解った。金属名は()めておこう〟

〝同じように宝石の名前でいいんじゃないの?〟

〝うむ。店名に「ダガシ」と冠しておれば、間違う者はおらんじゃろう〟



 ――という結論に落ち着いた。


 そしてその一方で、ダガシヤは別の町に出した方が良いのでは?――という意見も出たのであるが……



〝いえ……何かあった時――あるに決まっている――の事を考えると、相互に協力できる方が良いのではないかと〟

〝確かに、そちらの方が良いでしょうな〟

(しか)り。他の町に便宜を図るよりも、まず店が上手く立ちゆくように配慮するのが先決かと〟

 


 ――という事になったのである。



 そこまでの裏事情は教えてもらえないにせよ、今もごった返している店内の様子を見れば、取り扱う品数をこれ以上増やすのは無理だという事ぐらいは解る。別店舗にするというのも(うなず)ける話だ。


 そして、コンフィズリーショップで綿菓子を扱わないもう一つの理由というのは、



日保(ひも)ちがしない?」

「はい。あれはできた傍から食べるべきものでございまして。少しでも時間を置きますと、哀れなまでに(しぼ)んでしまいますもので」

「うむぅ……」



 まさかそこまで気難しい食べ物とは思わなかった。それでは祭り限定販売というのも無理はないか。


 ()(しょう)()(しょう)に首を縦に振り、砂糖菓子を購入した後で駄菓子屋へと足を向けた使節一同であったが、その途中で改めて案内人から釘を刺される事になった。曰く――冗談でなく暴動が起きかねないので、買い占めは厳禁であると。



「前に一度、家柄を笠に着て買い占めようとした愚か者が、店から文字どおり叩き出された事がありまして……」

「叩き出された? ……比喩表現でなくてかね?」

「はぁ。その時に店の者から、〝無体を図るというなら店を畳む〟――と脅され……警告されまして」

「脅し?」



 何の事か解らないらしい使節の男に、案内人がリーロットでの一件を説明する。



「何と……そのような騒ぎがあったとは……(テオドラムの阿呆どもめ……)」

「あの時には……当主が国に進退伺いを出す騒ぎにまで発展いたしまして……冗談でなく家名断絶の崖っぷちであったとか」

「何と……」

「幸いに店の方が矛を収めてくれたため、大事にならずに済みましたが」



 それは充分に大事(おおごと)ではないかと思う使節一行であったが、とりあえず品行方正に振る舞うという方針には同意した。(もと)よりモルファンとしては、騒ぎを起こす気など無いのである。



・・・・・・・・



「……モルファンの使節だと?」



 使節一行が店を立ち去った直後、「コンフィズリー アンバー」から連絡会議に連絡が入り、事態を重く見た連絡会議から、今度はクロウに注進が及んでいた。



『はい。店の者が案内人の男に確かめたそうです』

「イラストリアの案内人が、客の素性を漏らしたというのか?」

『恐らくは意図的なものであろうかと』

「ふむ……モルファンからイラストリアに何らかの働きかけがあり、イラストリアはその件をノンヒュームに報せたか。……確か『コンフィズリー アンバー』には、少し前にイラストリアから問い合わせが来ていたな?」

『はい。砂糖菓子の日保(ひも)ちと供給可能数、予約についての問い合わせが』

「その後の食器の注文と併せて考えると、パーティの用意か何かだと思ったんだが……それにモルファンが関わっているという事か……?」

『どういう事でしょうか?』

「解らんが……パーティを開くというからには、モルファンを歓迎する意図があるんだろう。不穏な事ではないと思うが……」



 事情の解らぬクロウと連絡会議の面々は、揃って首を(かし)げるのであった。

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