表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1010/1809

第二百十章 モルファンの動揺 1.使節派遣までの経緯

 さて、クロウのやらかしたあれやこれやのせいでテオドラムが混乱するのに半月ほど先だって、北の大国モルファンでも動きがあった。ネタとなったのは、以前にも触れたが、イラストリアに留学させる王族を選定する一件である。


 大国モルファンが他国に王族を留学させたという事なら、それは過去にも例がなかった訳ではない。ただ――隣国イラストリアがその留学先に選ばれた事は、意外な事に一度も無かったのである。遠交近攻が世の常であるこの世界に於いて、不用意に隣国と(よしみ)を通じる事は、地域に不安定化の種を蒔きかねない――という情勢判断もあったし、何よりイラストリアがモルファンを――当のモルファンには何の他心も無かったのだが――警戒していた。

 そんなこんなの事情から、今までイラストリアに対しては儀礼的以外の交流を持ちかける事は控えていたのだが……()(はや)そんな悠長な事を言っていられる状況ではなくなったのである。



「何しろビールに始まって、砂糖菓子やら古酒やら幻の革やら……今や()の国は騒ぎの渦中にある……と言うか、盛大に大渦を生み出しておるからな」

「幸か不幸か、あの国(イラストリア)の存在感は(かつ)て無かったほどに高まっている。我が国が(よしみ)を求めても、怪しまれる事も警戒される事も無いだろう」

「何としてもイラストリア……正確にはあの国に住まうノンヒュームたちとの間に伝手(つて)を求めて、(くだん)の品々を輸入できるように取り計らわんと……」

「マナステラや、沿岸諸国の商業ギルドも動いているというからな。我が国が(おく)れを取る訳にはいかん。……国内の貴族どもも(うるさ)いからな」

「全く……国内にノンヒュームがおらぬ事を、今ほど怨みに思った事は無いぞ」



 ――そう。大国モルファンの唯一とも言ってよい瑕疵(かし)。それは、気候条件の()せる(わざ)か、国内にエルフも獣人も、ほとんどいないという事であった。そのせいで、ノンヒュームたちの連絡会議に直接話を通す事が、難しくなっていたのである。

 そういう事情を抱えたモルファンが打った手が、連絡会議の事務所を抱えるイラストリアへの王族の留学となった訳だが……(あん)(じょう)、その選定は難航……と言うか、紛糾した。常時展開中(笑)の勢力争いとはまた別次元の争いが、其処(そこ)彼処(かしこ)の水面下で繰り広げられる事になったのである。


 喧々囂々(けんけんごうごう)侃々諤々(かんかんがくがく)七転八倒(しちてんばっとう)の論議の末に、イラストリアの第一王子(十歳)と年が近いという事で、第三王女が派遣される事に決まった。いささかあざといのではないかという意見もあったが、イラストリアの第二王子――着ぐるみパジャマの件で一気に脚光を浴びた――はまだ七歳であり、留学に(かこつ)けて(よしみ)を通じるには少々幼過ぎる。第一王女というターゲットもいないではなかったのであるが、この世界では王族の女子は学園になど通わず、王宮内で教育を受ける事が多いため、留学を通じて(よしみ)を深めようと(もく)()むモルファンにとっては都合が悪い。消去法で第一王子という事になったのである。



「……余計な気を回さぬよう、また、回させぬよう、充分に配慮する必要があるだろうが……」

「婚姻を通じてイラストリアの乗っ取りを企んでいる……などと疑われでもしたら、目も当てられぬからな」



 イラストリアとの仲に余計な(きし)みを生じさせたくないモルファン上層部は、隣国への配慮に頭を痛める事となっていた。



「――で、イラストリアに派遣した使節だが……何人かの者は残すのだよな?」

「あぁ。先方(イラストリア)からも了承を貰っている。魔導通信機で即時の連絡ができるようにしておかんと、()の国はここから遠いからな」



 モルファンの使節がイラストリアに赴くのに、実に十七日を要している。

 飛竜を使えばもっと速く、五日もあれば到達できるのであるが……



「まさか隣国の首都に、いきなり飛竜で乗り付ける訳にもいかんからな」

「うむ。刺激するのは控えた方が良い」



 飛竜自体は飛竜便として民間ベースの運送にも――高価ではあるが――使われているのだが、同時に飛竜は軍用にも使われている。いきなりイラストリアの空にモルファンの飛竜が舞うような真似をすれば、要らぬ警戒を抱かせるだけだ。

 という事で今回の使節は、国境までは飛竜に乗って飛んで行ったものの、そこから先は馬車で延々二週間をかけて王都まで辿り着いたのだ。まぁ、そこまでの配慮をした甲斐あって、イラストリアからは――半ば戸惑ってはいたようだが、それでも一応は――好意的に迎えられたのであった。



 ――モルファンの動揺はここから始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あー、十歳の第一王子はこの子ですね 『第五部 復興の精霊回廊 篇 第百八十章 王都イラストリア 1.国王の居直り(その1)』 >「上の子でさえやっと十になったばかりだ。懐妊問題など起こさせ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ