第二百九章 災厄の岩窟 4.金鉱石調査隊第三班の災難(その2)
『あいつら……何で態々灯りを点けてない支洞に駆け込むんだ……』
『少しでもスパイダーゴーレムに見つからないように――って思ってるんじゃないですか? 主様』
そう、第三班の前に姿を現したのは、嘗てマーカスの冒険者たちを翻弄したスパイダーゴーレムであった。能天男爵軍を襲ったメジャータイプより一回り小さく、洞窟内での奇襲に適したタイプである。
クロウはスパイダーゴーレムで軽く威嚇して、〝そうそう、迂闊に変なところへ潜り込むと危険だぞ? 何しろここは「災厄の岩窟」なんだからな〟――などと楽しげに呟くシーンを想像していたのであったが……第三班の連中は予想以上に胆が小さかったと見えて、想定外の方向へ駆け込むというアクシデントに見舞われたのであった。
『うぬぅ……トンチキどもめ。お蔭で余計な手間をかけにゃならん。……仕方ない。ケル、やつらの行く手を仄明るくしてやってくれ。どうせ点灯に気が付くほど落ち着いちゃいまい』
『畏まりました』
『ますたぁ、あぃつらぁ、どこへ行くんでしょぅかぁ?』
『さあな。だが、元来た道から遠離ってるのは確かだ。もうこの先は、運を天に任せるしか無いな』
『仮にもダンジョンマスターが、自分のダンジョン内で言う台詞じゃないわよね』
『全くだ』
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さて、ダンジョン内を無我夢中で無闇矢鱈と無茶苦茶に逃げ廻った第三班の連中であるが、
「……こ……ここまで来れば大丈夫だろう……」
「どうにか撒いたか……」
「けどよ、随分と横道に逸れちまったぜ。道順とかは大丈夫なのかよ?」
「あぁ、ちゃんと魔道具が記録してる。ただ……」
「ただ――何だ?」
「いやな、元来た道に戻るなぁ大丈夫なんだが、そうすっと、またぞろあの化け物と鉢合わせすんじゃねぇかと思ってよ」
「あぁ……そりゃ、確かにそうなるか……」
一同は暫く考え込んでいたが、
「……しょうがねぇ。その魔道具はこれまでの行程を表示できるんだろう? それを参考に、迂回路を探って進むしか無ぇだろう」
――という事に話が纏まり、一同は元来た道を戻る事無く、大凡出口があると思われる方向に歩いて行くのであった。
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『あ……』
『どうしたケル?』
『いえ……こちらに進むと、以前にテオドラムの冒険者たちが迷い込んだルートに出ますね』
『テオドラムの冒険者……あぁ、両軍が睨み合っている隙を衝いて忍び込んだコソ泥どもか』
直ぐには思い出せなかったクロウであるが、やがて木の葉の化石と巨大化させた鱗を託した連中の事だと合点する。
『抑の話、あいつらのせいで面倒な事態に陥ったんだが……』
――言い掛かりである。
元凶となった品二点は、どちらもクロウが屍体に持たせたものだ。
『……やつらのルートに迷い込むのか。……何だか嫌な予感がするな……』
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「お……おぃ待てっ! 金貨だ! 金貨が落ちてっぞ!」
「何っ!?」
「本当か!?」
「あぁ、こいつを見ろ!」
「金貨だ!」
「よしっ! もっと落ちてねぇか探すぞ!」
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『あぁ……テオドラムのコソ泥どもをおちょくってやった時の金貨か……』
『どうします?』
『別に構わんだろう。それよりケル、以前のコソ泥どもが辿って来たルートを逆に進ませて、やつらを追い出す事はできるな?』
『あいつらがまた妙な方向へ進まなければ』
『進ませるな。帰路以外の支洞は全て閉鎖しろ。これ以上やつらに付き合う暇は無い』
『畏まりました』
――という次第で、「災厄の岩窟」金鉱石調査隊第三班の面々は、何とか無事に帰還を果たしたのであったが……これが新たな騒動の引き金となるのであった。




