第二百九章 災厄の岩窟 3.金鉱石調査隊第三班の災難(その1)
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「畜生……見失ったか……」
「とっ捕まえてりゃ金一封もんだったのによ」
「岩窟」内を散々引き摺り廻された挙げ句、うまうまとゴーレムに逃げられた金鉱石調査隊第三班。その一人が残念そうに舌打ちをする。
「報告だけでも功績にはなるだろうが……」
「甘っちょろい事を言ってんじゃねぇよ。何で取り逃がしたんだ――って、お叱りを被るのがオチってもんよ」
「……知らんぷりを決め込むか? いっその事」
「……それも悪くないかもしれんな」
この一件が闇に葬られようとしたところで、遅れていた兵士の一人が姿を現す。
「まぁまぁ諸君、そう悲観したもうな」
「何だ手前、今頃になって追い着いてきやがって……何を抱えてやがる?」
「ふっふっふ……ただ芸も無く遅れていたと思ってもらっちゃ困る。――見な」
「何だ……?」
「おぃそれっ!?」
「そうよ。ゴーレムどもが逃げる時に落としてった鉱石よ!」
どうやらこの男、逃走の際に荷車から零れ落ちた鉱石を、抜け目無く拾い集めていたらしい。
成る程。ゴーレムを逃がしたのは一大痛恨事かもしれぬが、ゴーレムたちが運んでいた鉱石を回収できたというのなら、これは得点が失点を上回るだろう。
「でかした!」
「いやぁ~……お前ならやってくれると思ってたぜ」
失意から一転して沸き上がる一行。
「そうなると……後は無事帰り着くだけだな」
「大丈夫か? マッピングも無しで、随分と闇雲に走って来たが?」
「心配すんな。こういう時のために、行程記録用の魔道具があるんだ」
「おぉっ! そう言やあったな、そんなもん」
「んじゃ、何の心配も無ぇ訳だ」
安堵したような笑い声が、「災厄の岩窟」内に響いていた。
・・・・・・・・
『ふむ……「還らずの迷宮」に侵入した、テオドラムの密偵が持っていたやつだな。どういう仕組みなのかは判らんが……』
コアルームでモニターを観ていたクロウが、興味深げに呟いた。
『確保しますか? ご主人様』
「災厄の岩窟」のダンジョンコア・ケルが訊ねているのは、金鉱石調査隊第三班の連中を始末して、装備している魔道具を奪うかという事である。しかしクロウの判断は、
『……いや、止めておこう。今回は最低でも一人、メッセンジャーとして戻ってもらう必要があるからな。やつらの話を聞いた限り、他の班も同じものを持っているようだし、この先にも機会はあるだろう。魔道具に関心を持っているなどと知られたくない』
『畏まりました』
『それより、そろそろスパイダーゴーレムの出番じゃないのか?』
『はい、あの先の通路に待機させてあります』
・・・・・・・・
「……おぃ……何か聞こえなかったか……?」
「あ? 何がだ?」
「い、いや……気のせいか……」
「いや……俺にも聞こえた……小さな音だったが」
「おぃ! 何だってんだ!?」
その問いに答えるかのように、支洞からそれが姿を見せた。
「な! 何だありゃ!?」
「こ、こっちに向かってくるぞ!?」
「逃げろっ!」
すっかり恐慌に陥った第三班の面々は、クルリと向きを変えると一目散に駈け出したのであったが……




