第二百九章 災厄の岩窟 2.クロウの策動
「……もぐらもちから解放されたのはいいが……こっちはこっちで手応えの無い仕事だな」
「うむ、いい加減ウンザリするというか……」
「気を緩めるな。ここは『災厄の岩窟』だぞ。気を抜くと何が起こるか判らん」
「それは解っちゃいるが……こうも歩き廻るだけの日が続くとよ……」
「他の班では金鉱石の発見に至ったところもあると言うが……こっちはなぁ……」
「毎日毎日、ただ外れっぽい壁を眺めて暮らしてりゃあ、塞ぎの虫ってやつにも取っ憑かれようってもんだ……これも外れか」
成果の無い日々が続いたせいか、些か無常観に侵蝕されつつあったテオドラムの金鉱石調査班第三班の一行であったが、やがてそんな停滞感を吹き飛ばすものと遭遇する事になる。
「……待て……何か、音がしないか?」
「言われてみれば……荷車を牽いているような音が……」
「動くな。音を立てるんじゃない」
息を呑みつつ身を潜めていた彼らの眼前に現れたものは、
「あれは――っ!」
「馬鹿っ! 黙ってろと言っただろうが!」
「お前もな!」
彼らの前に姿を見せたのは、ここ「災厄の岩窟」名物である小さな金のゴーレムである。ただ、今回はこれまでの事例とは違って三体での登場で、しかも――
「荷車を牽いたゴーレムだと!?」
「載っているのは……鉱石か!?」
逆上した第三班に気付いてクルリと向きを変え、ちょこまかと一目散に、しかししっかりと荷車を牽いて逃げ出すゴーレムたち。鉱石を満載した荷車という大荷物がありながら、目を瞠るような快足である。
「あっ! 逃げた!」
「逃がすな! 追えっ!」
今までどおりのゴーレムであったなら、仮令それが金無垢のゴーレムであろうと、息を潜めて見逃したかもしれない。
しかし、現在の彼らの任務に鑑みれば、「鉱石を運搬しているゴーレム」など、絶対に看過できよう筈も無かった。その結果……
「待ちやがれっ! チビコロっ!」
「逃げるんじゃねぇっ!」
すっかり頭に血が上った一同は、警戒もマッピングもどこへやら、ただ只管にゴーレムたちの後を追うのであった。
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『一工夫したとは言え……相変わらずあっさりと引っかかるものだな……』
『まぁ、ゴーレムたちの手際も良くなっていますから……』
「災厄の岩窟」のコアルームでモニターを観ながら話しているのは、クロウとケルの主従であり、その周りにはクロウの眷属たちも控えている。
言うまでも無く、この一幕はクロウが仕組んだものであった。
クロウにしてみれば、折角招いたテオドラム兵は、一意専心、土木作業に注力してほしいという思いがある。余計な事に気を回すなという訳だ。そんなクロウが仕組んだのが、
『余所見ばかりするいけない子には、少しお灸を据えてやらんとな』




