第二百八章 新ダンジョン設計会議 2.フェザータッチラビリンス
多少の紛糾はあったものの、クロウが提案したデザインは、一応妥当なものと認められた。
『妥当って言えるかどうかは、少し疑問なんだけど……』
『何が不満だ? シャノア。ダンジョンと言ったら迷路というのは、お約束だろうが』
『それはまぁ……そうなんだけど……』
『構造がくるくる変わる迷路というのは、一般的ではないわい』
『そこはほら、ダンジョンなんだから』
侵入者がテオドラムかどうかによって難易度を変えるため、クロウはダンジョンの構造を、どこぞのゲームで見られるような迷路形式のものとした。その所々に広いボス部屋のようなものを造り、出現するモンスターは――一見――ランダムで変化するようにしたのである。これなら攻略の難易度をこちらで簡単に変更できる。
のみならず洞窟のマップ自体も、任意に変更できるようにしたのである。ただし、ダンジョンマスターが意図的にマップを変更しているのだと疑われないように、クロウは一手間かけていた。それがすなわち――
『衝撃を受けると簡単に崩れる壁ねぇ……』
『壁が崩落する事で通路が塞がれたり、新たな通路が出現したりするとはのぉ……』
『ま、それに紛れてマップ自体も変更するんだけどな。仮に崩落部を取り除いても、元通りのマップには戻らん訳だ』
『けど主様、そうすると冒険者たちも、強力な魔法を撃たなくなるんじゃないですか?』
『そこで更に一手間かける。壁の崩落やら地面の攪拌によって、埋まっていたお宝がほじくり出されるようにする』
『うわぁ……』
『安全第一の慎重派と、危険を冒して一攫千金派が対立しそうですね……』
『こちらが……構造を……変更しても……欲に駆られた……冒険者が……やった事だと……思われる……それが……狙い……ですか……?』
『まぁな。攻略者に与える情報は最低限かつ不確実にしておきたい』
――嘗てTRPGで辣腕のGMと謳われた、クロウの本領発揮であった。
『ますたぁ、モンスターたちはぁ、やられちゃうんですかぁ?』
モンスターのドロップ品を与えるのなら、モンスターを討伐させる必要がある。ダンジョンとしては至極当然のあり方だが、基本眷属たちに過保護なクロウがそれを容認するのかどうか。
『んな訳あるか。モンスターのステージはモグラ叩き方式でいく。全滅しなけりゃクリアーって事だ』
『モ……モグラ叩き……って何よ?』
『あー……モグラ叩きというと語弊があるかもしれんな。モグラ叩かれと言うべきか』
『だからぁ……何なのよそれは!?』
クロウが提案したのは、
・モンスターが出現するのは大広間のような空間のみ。
・モンスターは地中から不意に出現する。
・モンスターの攻撃は三十秒間に限定。
・攻撃終了後、一定の間はモンスターの再出現は無し。
・モンスターの攻撃終了後に、ほじくり返された地面からお宝が露出する。
・生き残った者がそれを総取り。
――というものであった。
『本当にゲームでございますな』
『でも、冒険者たちが強くて、モンスターがやられそうになったらどうするのよ?』
『爆煙に紛れて撤退だな』
『あ! 爆発エンドはお約束ですよね! マスター』
『火遁の術……でしたか……?』
クロウの安全第一主義――註.眷属のみ対象――は健在らしい。
『その場合のドロップ品はどうするんじゃ? 茶器だの何だのは不自然ではないか?』
『そうだな……ワイバーンか何かの革を素材に、俺が【錬金術】ででっち上げるか』
『……そんな事、できるの? クロウ』
『素材変換を使えばできる筈だ。効率とか費用対効果は、泣きたくなるほど悪いがな』
以前にクリスタルスケルトンドラゴンの骨――素材として使ったための欠損部――を補填する必要から、苦心惨憺してそれを創り出した時の労苦を思い出し、思わず遠い目になるクロウ。二度とやりたくない作業だが、そのお蔭で素材変換の技能が上がったのも事実である。怪しげなモンスター素材をでっち上げるくらい、今のクロウなら何とでもなりそうだ。
『ま、それだけじゃ面白くないから、こないだ貰った「呪いの装備作成キット」ってやつも使ってみるつもりだがな。あとは……魔石とかか?』
『魔石……』
『魔石なのね……』
『魔石なんですかぁ……』




