第二百八章 新ダンジョン設計会議 1.基本コンセプト
『さて、テオドラムのやつらがマナステラへやって来る……少なくともその可能性が見えてきたという事で、マナステラにおけるダンジョンの設計について検討する事にしたい』
――と、眷属会議の冒頭で会議招集の理由について説明しているのはクロウである。
精霊たちの諜報活動の結果、テオドラムがマナステラの冒険者ギルドに秋波を送っているとの情報がもたらされた。どういう形での交流となるにせよ、テオドラムの兵士なり冒険者なりがマナステラを訪れるのは確実――と、クロウは思っている――である。ならば、ダンジョンを以てそいつらを誘殺する事が可能になる訳で、それならマナステラに造る予定のダンジョンも、活躍の場ができるというものだ。
『……という事情を考えるに、テオドラム誘殺用ダンジョンの設計が急務だと思われる』
『「百魔の洞窟」だけじゃ足りないの?』
『……というかだな、モローのダンジョンにリクルートしたダンジョンモンスターたちの働きどころを造ってやりたい。候補地が見つかったのがマナステラだったんで、モンスターたちを働かせるのは難しいかと思っていたんだが、テオドラムのやつらが来てくれるというなら願っても無い好機だ』
『でも……どうやってテオドラムの連中を誘き寄せるつもりなのよ?』
『それについては後で考える。時間のかかる箱物を前に造っておかないと、折角の好機を逃しかねん』
クロウの主張を聞いて、それもそうかと得心する一同。クロウなら作成自体は一瞬だろうが、設計には時間をかけるべしというのは納得できる話だ。
『まず、ダンジョンのテーマだが……さっきも言ったとおり「テオドラム勢の誘殺」を目標にしたい』
『……態々〝テオドラムの〟と断ったところを見ると、テオドラム以外の侵入者には手心を加えるつもりか? クロウよ』
『おぉ……鋭いな、爺さま。そのつもりだ』
『あっ! マスター、イージーモードとハードモードが、あるんですね!?』
『ま、そういう事だな。入って来た連中がテオドラムなら殲滅モード、そうでなければリピーターモードでお迎えしようって訳だ。そのために、一階層の浅い部分に、監視用のカメラやマイクを設置しようと考えている』
『けど主様、テオドラムの冒険者ばかりが全滅するようだと、警戒されるんじゃないですか?』
『あぁ。だから全てのパーティを殲滅するつもりは無い。テオドラムの死亡率が心持ち高い程度にしておけば、ダンジョンアタックの経験が少ないせいだと思わせられるんじゃないか? リターンとしてのドロップ品を奢ってやれば、多少の危険には目を瞑るんじゃないかとも思ってるんだが』
ふむ――と、クロウの提案を吟味する一同。基本的な方針は問題無いように思える。
『そうすると……基本的な……構造は……「災厄の岩窟」に……準じる……訳ですか……?』
『まぁ、通路の広さとかはな。ただ、今回はモンスターの運用を前提にしている訳だから、構造もそれに合うように修正するが』
そう言ってクロウが提示したコンセプトとは……
『「モンスターを掻い潜ってお宝を目指せ!」……って、何なのよそれ……』
『ま、謳い文句ってやつだな』
『何やらご主人様がお持ちのゲームの類を彷彿とさせますな』
『お、鋭いなスレイ。まさにそういうのがコンセプトだ』
『所持金がぁ、減ったりぃ、するんですかぁ?』
『……いや……そういうのは考えてなかったが……ありなのか?』
『あるわけなかろう! 馬鹿もん!』
『いきなり〝普通のダンジョン像〟から離れないでよ、クロウ……』




