第二章 外へ 2.ワーム
一途な新キャラが登場します……が、当然人間ではありません。
最近はほとんど毎日こっちへ来ている。その日も慣例と化した立ち小便を済ませようと爺さまのもとへ歩いていると、後ろから少年(?)に声をかけられたような気がした。
『待って、待って、主様、待って』
振り向いた俺の目に映ったのは、落ち葉の上を懸命に進んで来るでっかいミミズのような……。
『あれっ、ワームですね』
ワーム?
『地虫の類が魔力を得てランクアップした魔物ですな。ご主人様を呼んでおりますし、新しい従魔ではないのですか?』
え? 知らんぞ?
『恐らくですが……ご主人様の聖水……甘露を浴びて……進化したのでは?』
あ……。
【個体名】なし
【種族】フェイカーワーム
異世界の魔力を浴びたためにミミズからランクアップしたワーム。元になった種族が大形になるものでないため身体は小さいままだが、ダンジョンの怪人の聖水を浴び続けた事で強い魔力を持つようになった。
【地位】ダンジョンモンスター クロウの従魔
【レベル】2
【スキル】土魔法 木魔法 単為生殖
『おぉ、そう言えば儂の根元にひときわ大きなミミズがおったのう。毎回のように甘露のおこぼれにあずかっておったようじゃ』
爺さん、そういう事は早く言ってくれよ……。
いつの間にか俺の従魔になってるし……。いや、怪人の聖水って何だよ。レベルが少し高いのは、異世界の食い物じゃなく俺の――怪人の聖水を浴びたためなのか? これじゃぁうかうか立ち小便もできんな……。
『あー、面とむかって話すのは初めてだが、俺の従魔でいいのか?』
『はいっ、どうか主様の僕に加えて下さい』
でっかいミミズ、いやワームは、俺の問いにかしこまって答える。かしこまったワームって初めて見たよ。
『ふむ。それではお前には……と、ウィンの名を与えよう』
いや、earthwormだからワームじゃあまりにも直球過ぎるし、地球にいる巨大ミミズの仲間、ツリミミズ類を指すLumbricinaは語呂が悪いし、ミミズを干した漢方薬の「地龍」の英訳はアースドラゴンで大げさだし。
結局、ミミズの研究を世に問うた不世出の天才、チャールズ・ダーウィンにあやかってウィンに。
『ウィン……ウィンっ。素敵な名前を有り難うございます、主様』
喜んでいるようだし、いいだろう。前にもあったが、従魔の使役者が名前を付けると、従魔のレベルが上がるんだな。
【個体名】ウィン
【種族】フェイカーワーム
異世界の魔力を浴びたためにミミズからランクアップしたワーム。元になった種族が大形になるものでないため身体は小さいままだが、ダンジョンの怪人の聖水を浴び続けた事で強い魔力を持つようになった。
【地位】ダンジョンモンスター クロウの従魔
【レベル】3
【スキル】土魔法 木魔法 単為生殖 念話
いや、土魔法と木魔法はスレイやハイファも持ってるから解るんだが、単為生殖って何だよ。普通にみられる単為生殖とは違うのか? そのうち聞けばいいか。
明日はクロウが村人の姿を目撃します。さぁ、果たして村人は人間なのか。




