序 章 マンション
読み専でしたが、話を思いついたので書いてみました。ド素人です。
「世の中、一寸先は闇」という諺がある。何が起こるか判らないのだから、普段からしっかりと心構えをしておくようにという教訓だ。不測の事態が起こっても、取り乱す事なく冷静に対処すれば、必ずや活路は開ける筈。子供の頃から、そう教わってきた。
……たとえクローゼットの中が、いつの間にか洞窟に繋がっていようとも。
冷静に扉を閉じ、深呼吸して数を数える。二十ほど数えた後に再び扉を開き、状況が変わっていない事を確認する。
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取り敢えず、当面はクローゼットの利用を諦めよう。ざっと見た感じでは、内部に危険な動物などはいないようだった。針金で扉が開かないよう縛って、原因究明は後回し。大丈夫、俺は冷静だ。朝食にしよう。腹が減っていては、ろくに頭も働かん。
考えがまとまらないままに朝食を終える。クローゼットの向こうには洞窟らしきものが、本来なら壁があるはずの位置をこえて続いていた。つまりクローゼットの中はまともな空間じゃないって事だ。それともまともじゃないのは俺の方か? やめよう。とりあえず、俺の頭はまともだと仮定しよう。そう仮定しないと話が進まん。
警察にでも届けるか。駄目だ。この空間異常がいつまで続くのか判らん。大騒ぎして警察を引っ張ってきたら元に戻っていた、なんて事になったら人生終わりだ。引き籠もりにだって引き籠もりなりに平穏な人生ってもんがあっていい筈だ。
警察以外の誰かに相談するか。これも駄目だ。自慢じゃないが、胸襟を開いて相談できる相手の心当たりなんかない。実家にはかれこれ五年以上連絡を取ってない――別に喧嘩別れしたわけじゃないが、面倒なんだよな。親の方だってこんな面倒事を喜ぶとは思えん。
このまま放っておくのも駄目だ。クローゼットが利用できないのはまだしも、いつ何が飛び出してくるか判らんような危険箇所を放っておいて、心安らかな生活など送れん。うん、やはり駄目だ。
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自分で調べるしかないだろう。
面白そうだし。