街に着かねぇな
説明回になってもうた
イルヴァが口を開く。
「なぜ神王国が代々勇者様を管理しているかは知っているな?」
当たり前だ。小さい頃から言われ続け、学校に入学してからも改めて教わる。
常識と言っても過言ではない。
「知っている。
神王国にしか異世界召還術が現存していないからだ。
学校で習うような事はどうでもいい、本題から話せ」
イライラする。
「まあ、そう言うな。
学校で教わらない話だってあるんだ」
軽く舌打ちをする。
「ふむ、続けるぞ。
召還される勇者様の数は毎回6人。ここまでは教わる話だ。
だが次からは一般人は知らない話だ。
勇者様は3人が神派、もう3人が王派という風に分かれて召還されるのだ
勇者様のステータスにはどちらかが書いてある」
本当に知らない話だ。
「その二つに何の差がある?」
「どの代の勇者様も魔王を討伐する際、帰ってくる頃には何名か欠けている話は有名だろう?
戦いの壮絶さを表す逸話だ。
だが実際は王派の勇者様の一人が裏切って、魔王側についているのだ」
「は?」
「驚くのも無理はない。
神王国内でも知っているのは王族と一部の貴族、そして教会の幹部だけだ」
「そんな国家機密みたいな物を俺なんかに話して良いのか?」
「…事の顛末が知りたいのだろう?」
妙に変な間があった。
何かを思案したのか?
沈黙を肯定と捉えたようでイルヴァは話を進める。
「王派だが、どうやらヒト族の王と魔族の王、つまり魔王の両方を意味しているらしく、どの代の勇者様でも理由は違えど必ず一人、王派から裏切り者が出るらしいのだ」
すぐには信じられないような話だ。
子供の頃から聞かされていた勇者の伝説の裏には考えもつかない様な事実があるのだ。
本当なら俺の中の常識が1つ壊される。こんな小さな事でも俺の常識だったのだ、少なからず動揺する。
「つまり、その魔王側の勇者が俺をこうさせたのか?」
「それは違う」
違うのか?
じゃあ、あいつは何だ?狂人か?
「あいつは、勇者なんかでは無かったのか?」
「いいや、貴様をそうさせたのは間違いなく勇者だ、勇者タカツキだ。
そんな力が使えるのは勇者以外いないだろう。
奴は魔族の王側では無かった。だがヒト族の王側でも無かった。王の元を離れたが、魔王の元にも就くこともなかったからだ。
奴は自らが王になる事を選択したんだ」
「そして王国を創る為にスキルだか魔法を使って国民を集めたってか?」
「知っていたのか。その通りだ、勇者の固有スキルを使っている」
話が繋がった。
二年前のあの時、タカツキが自分の力で作った傀儡にベラベラと得意気に話していた計画と。
計画ってよりは理想か、頭の悪そうな理想。
あの時のあいつは本気で話していた。頭の悪い話を。悪意のない無邪気な顔して。
俺と年もそう変わらない奴がだ。
まさに"力を持った子供"という感じだった。
大人の見た目して、力を持ち合わせて、子供みたいな事をするんだ。
ちぐはぐで気持ちが悪かった。
あいつの癇癪でいつ死んでもおかしく無いんだ。まともな思考能力があれば病んでいただろうな。
「タカツキはどこで何してる?
あいつは生きていたら駄目だ。
この世界の害でしかない」
これ、昔聞いたことあるな。
あれだ。『勇者の伝説』って話のセリフだ。勇者が魔王を倒す決意をする時に言っていた。
よく話してもらったものだ。懐かしい。
「一年ほど前にここより北西、神王国領と魔族領との境辺りに建国を宣言し、そこら一帯の貴族を虐殺した後、武力で占領している」
「なぜ放置しているのだ?」
あいつまじで建国しようとしたのか。
キモいな。
「放置などしなかったさ。
当初神王国の王は勇者タカツキを魔王側の勇者だと認定し、勇者の名を語る蛮族の殲滅を市民向けの名目として一軍を率いて勇者タカツキの占領下に侵攻した。
結果、両軍に大きな爪痕を残し神王国は敗退したのだ」
爪痕残せるレベルなら勇者といえど、そこまで強い兵を揃えられなかったのだろう。
じゃあなんで敗退したんだ?
「神王国が投入したのは軍の一部なのだろう?
両軍とも大きく損害を被ったならば、増援して一気に蹂躙する事もできたのでは無いのか?」
「その意見は当然出た。
だが、占領した面積が小さすぎてこれ以上軍を投入すれば、ただでさえ旨味の無いのと同然の戦いが更に不味くなる。
それにこれ以上下手な事をして魔族軍やディエーチ連邦軍に隙をつかれて、守りの薄くなった場所に攻め込まれては元も子も無いからな。
勇者タカツキの占領地も、ある程度奪還できたのも増援しなかった要因だろう」
そうか、敵国が周りにいるのか。
以前、学校の不良先生が言っていたが神王国は国教を周辺の国々に押し付けすぎて反発されたのに始まり、様々な事でグイグイいって対立しやすく、その度に辺り構わず喧嘩を売っているらしい。
要するにヤンキー国家、神王国。
先生懐かしいなぁ。
聖職者らしく無い事とか色々教えてくれて面白かった。記憶だと死んでるけど。
「で、タカツキはそこで王様ごっこしてるわけか?」
「ふふ…王様ごっこか、
面白い表現をするのだな。確かに王様ごっこなのかもしれないな。
勇者タカツキの占領地は鎖国状態で実態はあまり知られていないが、潜入して帰ってこれた諜報員によると娯楽施設や宿泊施設などは無く、人気はあるが人が住んでいるとは思えない程静閑で、子供から老人に至るまでの全員が淡々と各々の仕事をしていたそうだ。
恐らくだが、全員が勇者タカツキの能力下にあるのだろう。
あそこらの人口の一万人全員がだ。信じられない話だ」
そんな面白かったか?
この娘の笑いの沸点低いのだろうか?
「一万人か、本当に信じられない話だな。
勇者ってのはそんな規格外な能力ばっかりなのか?」
「ふむ、そんな感じだ。
最もあそこまで他人に干渉する固有スキルは歴代に類を見ないらしいがな。
魔王の元に就かなかったのが、せめてもの救いだ」
勇者の伝説とかって湖を割っただとか、空に大陸を浮かべたとか、龍と協力したとか大部分を子供向けに改変した創作だと思っていたが、あながち嘘とは言えないのかもしれない。
イルヴァが続ける。
「それで疑問なのは、なぜ貴様への干渉が解除されたかだ。
いつ自由になったのだ?」
確かに何故だろうか。
死んだか?
「多分だが俺がイルヴァと合う一日前だ。
だから意識が戻ってから今日で三日目になるな」
三日目か、短い時間で吐いたり殺したり脅したり色々あったな。
色々ありすぎだと思う。この勢いでいったらすぐ死ぬな。
ああ、でも不死だ。復活の条件がはっきりしないけど。
記憶だと右半身吹き飛んだり、劇毒浴びせられたりはあるが気がついたら復活しているって感じで、いまいちわからない。
「三日、三日か…結構すぐなんだな。
そんな生まれたてみたいな奴に負けたのか私は」
「落ち込んだって仕方ないだろ。弱いんだから。
それよりタカツキの話だろ?」
「そりゃあ貴様に比べたら弱いけど、私は一応実力者で通ってたんだ。
Aランクは無理だけど、Bランクの魔物になら勝てたし」
こっちを向いて話してくれなくなった。
面倒臭いなーこの娘は。姑かよ。
タカツキの話をしてくれよ。
俺が面倒そうな顔をしていると
「ふふ、冗談だ。
少し困らせてやりたくてな。許せ。」
今更だが、こんな状況なのによく余裕持てるな。
やっぱり心が壊れているのだろうか。
「勇者タカツキの固有スキルには人数の上限が無いらしい。傀儡はヒト族以外の亜人種も含めた人の数だけ作れるというわけだ。
自分の傀儡の強さを把握できるかは知らないが、どちらにしても解放する理由は無いだろう。
貴様ほどの実力者はそうそういるものでは無いし、弱くとも数は力だ、少なくとも肉壁程度にはなるからな」
「えーとつまりは、タカツキが能力を解除せざる負えない状況にある、若しくは死亡かそれに準ずる状態にあるって事を言いたいのか?」
「その通りだ。
そんな成りしてちゃんと頭は回るのだな、見直したぞ」
舐めてんのか、このアマ。
こちとら元文官候補やぞ。ぶち犯すぞ。
いや勃た無いけどさ。
泣いていいですか?
「それで、これから貴様はどうするのだ?
勇者タカツキを殺したいのだろう?
死んでいたら徒労に終わるが、生死を確かめに行くか?」
「いやいいよ。
遠いみたいだし」
「よし、そうと決ま………ん?」
なんだ、まんって。
エロいなー。
「今なんと言った?」
「遠いんだろ?
いいよ面倒だし」
「いや、確かに馬車でニ週間以上かかるが、
さっきの言葉はどうした!?
復讐するのだろう!?」
それね。さっきの言葉ね。
きっと物語の主人公ならきっとあんなセリフを吐いて、魔王を倒すまで頑張るんだろうと思ったんだ。
だから俺も言ってみたら同じ気持ちになるんじゃないかと思ったけど、ならなかったんだ。
皆は死んでるけど、俺は生きた。だからまぁいいやって気持ちになった。
皆に悪いなって思う気持ちはちゃんとある。そんなに強く無いだけで。
タカツキが確実に生きてるならもう少し違う感情が湧くのだろうか?
あ、でも男性器の恨みはあるな。タカツキが犯人だと決まったわけじゃけど。
「タカツキは一万のも人間を支配下においているんだろう?
だったらそいつらも解放されているはずだ。
一万人が一斉に正気を取り戻したなら、そのうち大ニュースとして多量の情報が伝わって来るぞ。
タカツキの生死も含めてな。
行動はそれから決めても遅くはないだろう?」
「貴様、本気で言ってるのか?
それは合理的とは言わない、ただの薄情だ。
危険な奴だとは思っていたがここまでとはな。
見損なったぞ」
見損なったってなんだよ。
出会って一日と数時間程度で人の何がわかるっていうんだ。
わかってたまるかよ。
俺だって好きでこんな性格してるんじゃないんだ。
仕方無いだろう、そういう星の下に生まれたんだから。
努力したって、隠そうとしたって結局はこれなんだ。受け入れるしか無いんだ。
だから俺は少しだけ笑って
「今更気がついたの?
遅いよ」
久し振りに笑った気がする。
\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/
そうして街に行き着いた。