街に行こうか
「おい、もう起きろ!
そろそろ着くぞ。」
起こされた。女性の声だ。
薄汚れた幌の屋根。
不規則に震動する床。
馬車だ。馬車に乗っている。
眠くて思考がはっきりしない。
えーと、あれか
\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/
女は泣きつかれて寝てしまった。
彼女は俺の申し出を受け入れてくれるだろう。
眠る前に泣きながら、ごめんなさいだとか、お許しくださいとか嗚咽混じりに聞こえてきたし。
彼女の中に正義はある。
だがそれ以上に彼女は自分を愛しすぎている。聞いた話だが騎士ってのは公に忠義を尽くすものらしい。それこそ自らを犠牲にすることすら厭わないくらいに。
だから正解は自害して、このどうしようもない状況から逃げ出すとかだと俺は思う。
さて、気がつけば日はもう高く、時間で言えば正午あたりだろう。
昨日嘔吐してからずっと胃に何も入っていない。こんな状態でよく騎士を相手に勝てたものだ。
飯を食べたい。が、馬車には干し肉なんかの保存食しかない。
これがクッソ不味い。味が無い。どうなってるんだ。安物だろ絶対。
そんなわけで狩りをしてきました。
やはり身体能力が異常に高い。30メートル先に発見した兎に余裕で追い付けた。しかも普通の獣ではなく魔物だ。一角兎と呼ばれるやたら動きの速い兎に追い付けたのだ。異常と言う他あるまい。
兎の他に山犬や猪などを狩って、女のいる場所に戻る。
女は起きていた。
「おはよう。もう昼だけど。
気分はどう?」
こちらを見て苦い顔をする。
やっぱり嫌われたか。
「最悪だ。お陰様でな。」
皮肉を言えるくらいに元気なようだ。
「それは良かった。
お腹空いてるだろ?
お前らの干し肉クソ不味かったからご飯狩ってきたよ。」
「勝手に馬車の荷を漁ったのか…」
気にすんなよ。今更。
こちとら貴族様の荷を漁って埋めた事があるんだ。気にするまい。
「まあまあ、文句言える立場じゃ無いんだから。
それと俺の"お願い"覚えてるよね?」
返答はない。
覚えているという事だろう。
話を続ける。
「俺の"お願い"受け入れてくれる?」
短い沈黙の後、
「…その前に聞かせてくれ。
本当に私の部下は、もう全員いないのか?」
「いないよ。獣人を含めて全員埋めた。
それ以前に胴か首を両断したから皆死んでる。」
「はは…そうか」
何故かちょっと笑ったぞ。怖っ
いや追い詰めたの俺だけど、こんなになっちゃうんだな。
次から気を付けよ。
「私は部下の為にも生きなければならない。
だから今は貴様に従おう。」
自分が何言ってるのかわかってるのかな?
とんでも無いことを言っている。
部下の為?それなら俺に徹底的に抗うべきだ。俺を殺すべきだ。殺せないなら死ぬべきだ。
生きたいって本音を隠そうともしない。
やはりどこか彼女の心を壊してしまったのだろう。
でも仕方が無い。
俺に合ったが運の尽きだ。
会話はできるし、俺の"お願い"は聞き入れてくれた。ちゃんと仕事をしてくれるだろう。
まずご飯を食べよう。何をするにしてもこれからだ。
\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/
飯を食いつつ、色々と質問した。
まず彼女はイルヴァ・スパーダというらしい。聞いてもいないのに自分の父親が将軍兼宮廷魔導師という事を再度伝えてくれた。お家自慢がうざい。
イルヴァはヒト族の最大国家である神王国の騎士だと言う。神王国は国教と政治ががっつり癒着する宗教国家だ。そして先程イルヴァが言っていた敵国とはヒト族領内で神王国の次に栄えているディエーチ連邦共和国の事らしい。
敵国と言っても対立しているのは貴族、王族や教会だけで、商人や冒険者などを含む一般市民には関係の無い話らしいが。
だが相手の国の貴族の子供を誘拐するなどは実際に起きたらしいので、どの程度関係が悪いのかが伺える。
それ故にイルヴァは俺を敵国の者だと思ったらしい。仮面で顔隠してたんだから、わかるわけないだろうが。
そしてこの地は主要な街道から大きく外れた辺境の山との事。人通りは滅多になく、山道を少し外れればAランクやBランクの魔物がいる魔境の山だとか。
そんな山な為、人を殺して捨て置くには都合が良かったとの事。そしてあの獣人は貴族様が奴隷の獣人にハッスルしてできた半獣人で、立場的に望まれない子だったがひっそりと暮らすのを条件に養っていたが、勇者に言い寄ったから引き剥がそうと思ったが、ムカついた為殺す事にしたらしい。
すげぇ俺の予想合ってた。獣人のお姫様だった。
というかムカついて殺すってなんだよ。
「恥ずかしながらあの時は少し頭に血が昇っていてな、冷静さを欠いていたんだ」
お前の一存かよ。
「一応私も数いる勇者様の婚約者候補の内の一人だったんだ。
それが婚約者候補でなければ産まれも悪い獣人の分際ででしゃばって来たのもだからつい、な」
気持ちはわかるが獣人へ蔑視の方が伝わってくる。
神王国の貴族、王族はヒト族至上主義を掲げており、獣人族などヒト族以外の亜人種はヒト族より劣っていると見なしている。
幸いその考えは一般市民にまでは広がっておらず、市街地では他人種と盛んに交流しており、獣人族の冒険者も多い。
つまりイルヴァは本当に良いところの生まれなのだろう。
「さて、飯も食い終わった所で提案がある」
イルヴァの口元を布切れ拭いながら問いかける。
ちなみに縛ったままなので、幅の広い葉の上に肉を乗せて犬食いをさせていた。違います。そんな性癖じゃ無いです。
「提案とは?」
「もう一度勝負しよう。
ただし、イルヴァは普通の装備で良いよ。それにに対して俺は素手で戦う。もちろん俺は殺したりしないよ」
「それに何の意味があるのだ?」
「特に無いよ。ただ確認したいだけだ」
半分嘘だ。
純粋に俺とイルヴァの実力を確認したいのはあるが、特に意味が無いわけではない。圧倒的な実力差があれば恐怖を植え付ける事ができるからだ。
上手く行くかわからないが確実に勝てるとは思う。圧倒できたなら操りやすくなるし、寝首を掻かれる事も無くなる。圧倒できなかったら…その時かな。
「何を企んでいる?」
「いいんだよ細かい事は。
そっちは武装して、こっちは徒手格闘。
そっちは俺を殺せて、俺は殺さない。
部下の仇討ちたいでしょ?
やるの?やらないの?」
「ああ、そうだったな。
やる、やるに決まっている。
その言葉を後悔させてやる。
そして命乞いをさせた後に殺してやる」
「よし、やろう」
\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/
勝負は数分で終わった。