五話目ですよ
やぁ皆!元気かな?
うん、それは良かった。
え?俺?俺は元気ないよ。
何でかって?それはね騎士七人、獣人三人の死体を処理しなきゃいけないからだよ。
なんでだよ!何なんだこの状況。
誰だこんな状況作ったのは。俺だよ。
いや騎士については俺のせいだけど、獣人は何だ。なぜ余計に二人死体が増えている。
服装から判断すれば姫様とその従者達でもおかしくはない。
姫様!ここは私達が食い止めます!その隙にお逃げ下さい!(裏声1) グサー キャァァァァ ペコー!(仮)、マリー!(仮)(裏声2)
という感じのくそみたいな想像をしながら仮面の女の鎧を剥がし、馬車の荷台に積んであったロープで拘束する。
ちなみに胡座縛りです。違いますそういう性癖じゃ無いです。本当だよ?
もう逃げられないし仮面の女の処理は後にする。次に死体だ。
俺の記憶だと襲った人間は穴を掘って埋めていた。皆で協力して深く掘って見つからないようにしていた。
10人分の穴ですか…
\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/
掘りましたよ。一人で頑張って。
長剣を地面に突き立てたら思ったより早く終わった。
武器を穴を掘るのに使うってどうなんだろうって思ったけど武家の生まれでもないし割りきった。
ぞんざいな扱いをしたわりには刀身は一切歪まなかった。ステータスに重鉄鋼の長剣って書いてあったが、重鉄鋼ってそんなすごい性質を持った物質なのだろうか。
街に行けたら聞いてみよう。
そして本日のメインイベント、仮面の女です。
仮面外してみたら美人って相場が決まってるけど、つい先程フラグを叩き折られたから今回もきっと不細工に違いないと自分に言い聞かせるも、心の片隅でどこか期待してしまう自分を否定しきれずに、そっと仮面を外す。
うん、普通だ。
いや、可愛いさはある。素朴な可愛いさだ。俺が期待し過ぎたせいで大抵の顔が普通に見えてしまう。なんか申し訳無い気持ちになるな。
あと鎧は胴体だけ薄いプレートで覆って後は皮で四肢を覆うタイプの物だった。さすがにフルプレートとかだったら両断できない気がする。
なんか意識の無い可愛い娘が胡座縛りで転がってるって、ねぇ。
それと気がついた事がある。
自分の身体が一切反応しないのだ。故意ではなく縛っている途中に手が軽く胸に当たってしまったのだが、反応を示さなかった。本当に故意ではないよ?
確認の為普通に揉んでみたが、反応しなかった。
普通の暮らしをしていた時は学校でも女子に話しかけられてもろくろく話せないようなガチガチのチェリーボーイだったのに、これはおかしい。
二年の記憶の中でも一人で慰めた記憶すら無い。
これは俺が不能になったという事なのだろうか。
え?まじで?生殖機能無し?やばい涙出そう。
「おい」
俺が悲観している中、どこからか声が聞こえる。
ほっといてくれ。俺は今現実を直視できないんだ。俺の俺が俺の知っている俺ではないんだ。もう俺の心は折れているんだ。
「私の縄をほどけ変態」
「誰が変態だ」
何だ起きたのか。起きて早々変態呼ばわりして、命令もするなんてすごいなこいつ。自分の置かれてる状況わかってんのか?
「いきなり全裸で登場した上に、起きればこんな拘束の仕方をされている。お前は変態以外の何者でも無いだろう」
間違って無いけど何でこんなに偉そうなんだよ。
「状況分かってる?」
「わかっているさ。捕虜だろう?そして貴様は敵国の者だな。
それと私の貞操は無事だろうな?傷物にされたとわかれば交渉など無視して私の父上が殴り込みに来るぞ」
わあ、色々勘違いされてるー。
何の話だろうか。
「とりあえず色々思案してくれてると思うけど多分全部違うと思うよ
あと、貞操は問題無いよ。君じゃ勃たなかった。」
「は?」
「お前がどの国に所属しているか、どこの国と敵対してるかなんて知らないし、お前の父親も知らんぞ」
「わ、私を捕らえて交渉のカードにするのでは無いのか?」
「違うよ」
「じゃ、じゃあ山賊なのか…?」
さっきとは一転、絞り出すような声になった。
おそらく身分という後ろ楯が通じる相手では無いとわかり、急激に不安に駆られたのだろう。
この落差、良いねぇ。急におどおどしちゃってさ。可愛いなぁ。
「だとしたら、どうする?」
「貴様は私の父上を知らないと言ったな…父上はこの国の軍事のトップである大将でありながら宮廷魔導師の序列1位でもある魔法剣士だ。」
少し声色が戻ってきた。
魔法剣士なのに宮廷魔導師なのか。すごいな
すごい魔法使いが可哀想。
「私の身に何かあれば父上はすぐ貴様を殺しに来るだろう。
だが私が口添えしてやれば父上どころか刑をも免れるぞ。
その代わりだが貴様には軍役に服し、私の下に就いてもらおう。
どうだ?悪い話では無いだろう?貴様ほど強ければ我が軍は山賊であろうと歓迎しているぞ。多少の罪であれば揉み消せるからそこら辺は心配しなくて良い。」
軍って事は騎士か、という事は公務員でもあるのか。
公務員か、すごく魅力的な話だな。
だけど
「断る」
「なっ!何故だ!何が気に食わないのだ!」
自分の身の安全が危うくなった瞬間これか。
さっきまで自分の話に乗ってくると思って饒舌に話していたのに。なんか可愛いなぁ。
俺は揉み消せるレベルを越える犯罪者かも知れないし、迂闊に動けない。こいつが嘘をついていて、行った瞬間お縄につくなんて事もあり得るしな。
「何が気に食わないってお前だよ。
偉そうに、偉そうに、偉そうにさ。
自分の立場理解してないよね?
そろそろ受け入れようよ」
「部下は、どこにいる?あの二人は死んでしまったが残りは私が負けてしまった時点で投降するはずだ。私より強く無いんだ。」
声色が再び悪くなってきた
僅かな希望にでさえ懸けて、ここから打開できないか探っているのだろうね。
惨めだね
「全員殺したよ。」
「…投降した、はずじゃ?」
「いやちょっと勢いでな。下手な行動とらせるよりも先に殺しちゃったよ」
「私の、部下、が?
勢いで殺せる、ほど弱い、はずは…」
「はずはない?
死んじゃったんだからしょうがないじゃん」
部下死に動揺している。
いや最後の僅かな希望ですら叩きおられたからか
信頼されていたようだし、とても良い上司部下の関係だったのだろうか
死んじゃったからもう関係無いか
「…なんだ」
「ん?」
「何者なんだ貴様は!何が目的だ!」
あらら、キレちゃった。
そんなに追い詰められてたのかな。
ちょっと泣いてるし。
「誰なんだろうね。バーサーカーかな?」
「バーサーカー…?」
知らないようだ。
こいつが無知なのだろうか。いや、こいつの言葉を信じるならば良いところの生まれのようだし学が無いって事は無いだろう。
考えてみれば俺はバーサーカーについて何も知らないと気がついた。
知らないとは罪だ。魔法使い系の職なのに前衛に出れば死ぬのは必至だろう。
記憶はあるがその時に何を思って、何を考えていたかはわからない。だから知らなければならない。自分を把握しなければならない。
戦乙女さんに聞いておくべきだったな。
「お前をどうこうするつもりは無いよ。
とりあえず街に行きたい。だから教えて欲しいんだ、ここから一番近い街を。街に入るには身分証とか必要だろうけど、俺は身分証を持っていないから君に俺の身分を保証して欲しい。」
「き、貴様のような奴を、危険な人物を!街に入れるわけ無いだろう!」
なんか情緒不安定みたいになってる。
扱いが面倒になりそうだ。
「だからだよ。だから手伝って欲しいんだ。君の助けが必要なんだ。
拒否権が無いわけではないけど、拒否したらわかるよね?
お前には荷物ない、剣すら無いんだ。おまけに縛られていて抵抗もできない。
俺はお前の服を剥いて、木に縛り付けて、放置して、お前らの乗ってきた馬車で去ることもできるんだ。
助けを呼ぶために声を出せばならず者がよってくるかもね。
俺はこの場所がわからないんだ。適当に進んで行けばどこかにたどり着くかも知れないけど、そこから面倒な事になるだろう。それはできれば避けたい。
だから俺は君が欲しいんだ。」
本当は馬なんて操れないけどね。
あ、泣き出しちゃった。
さっきとは異なりぼろぼろと涙を流して、鼻も垂らして、なりふり構わずに
いい大人がエンエン声を出して、子供みたいに。
本当にこの娘は可愛いなぁ。