前置きはここまでだ!
まず最初に確認した事は村の皆の事だ。
幼馴染みのエマも含め村の者全員が死んでした。やはりその事に変わりは無いようだ
変化があったとすれば俺の心情だろうか。さっきまで思い出しただけであんなに吐いていたのに今は思い出しても吐き気はしない。それどころかほとんど感情の起伏が感じられなかった。
一つだけ確かな事、これは異常だ。その程度の事くらいはわかる。いや、そうとも限らないのだろうか。判断能力が異常なら思考が合ってるかわかったものではない。というか記憶すら正しのかよくわからない。
どっちにしろ何かがおかしいのだろう。自分のどこかが壊れているだなんて受け入れ難いものだ。
そんな事を思いつつ事の発端であろう日の出来事を回想する。
\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/
あの日俺は昼前に学校から帰って来た。まあ学校といっても都市の学校とは比べ物にならないくらい貧相なものだが、教育水準は午前中で帰ってる来る辺りでお察しだ。
それでも一応は国の定める基準を満たしているらしい。文官の素質のある者、兵の素質がある者、魔法の素質がある者など才能のある人材を探して都市へ送って素養を高める。更にその中で能力を認められた者は王都へ送られ、その後は出世街道に乗れるというものらしい。そう学校で教わった。
因みに俺にも文官の素質があったらしいが都市行きの話は蹴った。家にそんなに金の余裕が無いからだ。文官になれば贅沢もできるが、そこまでの過程が微妙に長い。それに都市の文官の育成校へ安くない入学金を払わなければならなかった。そんな理由で諦めざるおえないのだ。どの村でも俺みたいな奴が居るのだが、何の対策もしないのは貴族の子供達も通う学校にあまり平民を入れたくないという思惑があるからだと先生である神父様が言っていた。
「クソみたいな話だ。ヘドが出る」とも言っていたな。聖職者が汚い言葉吐いて良いのかよと思いながら聞いていたのでよく覚えている。あと神父様も俺の記憶では死んでいる。
それでそんな学校から昼前に帰ってきて俺とお袋、エマとエマのお袋の四人で昼食を取った後、畑にいる親父どもに昼食を届けるためにサンドウィッチが入ったバスケットを抱え、ドアを開けた矢先の出来事だった。
「丁度いい所に来た。少年、村の人を全員集めてくれないかな」
そこにはペンのインクを被ったかのような黒々とした髪の人間が立っていた。ヒト族は金、銀、赤、明るい茶色などの髪の色しかいないのだ。
「じゅ、獣人族か?」
熊などの獣人は野生の熊と同様に黒い体毛を持つからだ。もし獣人族ならば耳は戦闘や暴行によって無くなったのだと思った。あと一瞬龍人族の一部には黒髪を持つ者もいるという話も思い出したが、龍人族は滅多な事で山から出てこないから、すぐにその考えを否定した。
何かで染めているだけの可能性も考えたが、瞳まで黒いのだ。疑う余地は無かった。
「ああ、この髪?違うよヒト族だよ。多分。この髪の事は説明するからとりあえず人を集めてくれないかな、っと思ったらもう俺の部下が集めてくれたみたいだ。でも何か男が少なくない?」
「親父達はこの時間は畑にいるんだ」
「ああ、そういうことか。じゃあどうしよっかなー、命令しちゃえばいいかなー」
最後の方は独り言のようだった。そしてこの男の言葉が何を意図しているのか全くわからなかった。
いつのまにやらお袋達も家から出て来ていた。
なぜこんな見ず知らずの人間に村の全員が従うかというと、彼の部下らしい女達が全員一級品の装備だったからだ。素人目からもわかるほどの装備、ただならぬ雰囲気を感じて皆広場に集まったのだ。
男の部下達は男の側では無く、なぜか集まった俺達の周りにいた。
「なぜ集められたのだ?」誰かが質問を投げ掛けた。皆同じ思いだったのだろう。
「ああ、今から話すよ。まずは自己紹介からだ。僕の名前は高槻義治。この世界に召喚された勇者だ。勇者だからこんな髪色なんだよ」
その言葉に皆動揺が隠せない。最近勇者召喚が行われたとは噂では聞いていた。だが六百年ぶりの勇者召喚だ。皆初めて見る。目の前にいるのだ、お伽噺の代名詞の勇者が。驚きを隠せない。
そして勇者を名乗る男の次の言葉と行動に驚愕する事になった。
「で、用件の話だけど…君達にちょっと奴隷になって欲しいんだよね」
何を言っているのか理解出来なかった。
え?奴隷?あの魔道具の首輪をつける?何の為?勇者が?勇者なのにか?勇者なのか?
「何をゆーておる!冗談にもならんぞ!」
村で最高齢のおばあちゃんだ。94歳なのにまだ杖も使わず一人で歩けて、仕事をして、皆に優しくて、怒った姿なんて一度も観たことが無いあのおばあちゃんが声をあらげている。
聞いた話だがおばあちゃんは若い頃奴隷だった事があるらしい。拐われて違法に奴隷商に売られたからすぐに解放されたが、奴隷だった数ヵ月の間につけられた傷は深かったのだろう。故に激怒しているのだろうか。
男はおばあちゃんを一瞥し
「老婆は…いいや」
男が言うや否やおばあちゃんが爆ぜた。頭が吹き飛んだ。
一瞬の静寂の後、理解の追い付いた者が悲鳴をあげる。それを皮切りに皆が叫び、男と反対側に逃げ出した。だがこの事態に備えてなのだろう。男の部下の女達は囲うように周りにいる。
数人が切られ、殴られ、地面に転がり呻き声をあげた所で全員の足が止まる。
「ふっ、ふざけんな!」
一人、勇敢な者が飛び出し、男に殴りかかった。俺の友達だった。
しかし男の部下の一人にいとも簡単に取り押さえられた。
地面に叩きつけられ、頬に土をつけられる。
「良いねー、良いよ君、その無謀さ。君は若いから期待してるよ」
友達は頭を地面に押さえつけながらも横目で男を睨み殺さんばかりに睨むが、男は友達の頭に足を乗せ、踏みつけ
「奴隷契約」
そう言うと少し友達の頭が光った。その後ゆっくりと光は収まっていく。
男が足をどけると友達は何事も無かったかのようにスクっと立ち上がり
「主よ、ご命令を」
そうが言ったのだ。
すぐに理解した。男は本当に友達を奴隷にしたのだと。
全身に寒気が走った。さっきまで敵意を剥き出しにして飛びかかったのに、今は敵意の欠片もない。一切感じられない。
これが勇者の力なのか?
こんなもの、まるで魔王じゃないか
「さあさあ皆も頭を地面につけてくれ。踏みつけ無いと固有スキルとやらを発動できないんだ。」
男が言うと同時に男の部下の女達が武器に手をかける。
拒否権は無いと言わばかりの行動に皆次々に膝を曲げ、地面につけ、頭を地面に擦り付ける。
男は満足そうな笑顔を浮かべ、一人一人踏みつけていく
皆が順々に頭を踏みつけられいくのをただただ見ていた。
おばあちゃんが爆ぜた時も皆が悲鳴を上げ逃げた時も友達が果敢に挑んだ時も、俺はただ見ていただけだった。
何もしなかった。何もできなかった。
俺の頭は現状を理解しようとしなかった。
「最後に君だね…何してるの?早く這いつくばってよ」
突っ立っていた。体が動かないから。
声が出なかった。頭が働いていないから。
俺が指示に従わないのに痺れを切らしたのか男の部下の女が俺の足を蹴り、顔面から地面に激突する。
地面に手をつき、衝撃を分散しようともしなかった。反射すら行われない。
頭を踏みつけられ、意識が遠のいていく。
まどろみに飲まれていく。最後の最後まで何もせずに。