01-007 覚醒
迷宮サバイバル七日目。
・氷狼 8Lv
HP:40
MP:9
STR:16
INT:8
VIT:12
MEN:8
DEX:15
AGI:19
PIE:0
LUK:1
スキル:爪牙
更に氷狼が強くなった。スキルまで装備だ。だが、もはや焦る事などない。
「二段階強化にスキル一つ――計3飜――タンピンドラ1ってとこか。んでバンバン。基礎20符にロンで合計30符、子で120符と。
240、480、960、1920、3840。はい、出ました3900点」
解説しよう。
☆★☆:解説開始
以後、麻雀の点数計算の解説が入ります。そんなのどうでもいいと言う方は、この先の“☆★☆”まで飛ばして下さい。
麻雀は、アガれば必ず二十点貰える。これを基礎二十符という。
不意打ち無しなので面前ではなくロン扱いとした。よってプラス十符。合計三十符。
雑魚モンスターなので子の扱い。従って×4で百二十符が基本点となる。
真也は後が楽なので親子の計算をこの時点で行っているが、人によっては違うかもしれない。そこは注意が必要だ。
次に飜の計算だが、最初二レベルだった氷狼が、四レベルになり、今は八レベルとなった。従って二段階強化。よって二飜相当とした。
スキルが一つあるのでドラ扱い、プラス一飜。バンバン込みで五飜。
一飜につき×2だから×2^5となる。
つまり120×2^5で3840点。
単純に方程式で書けば(20+10)×4×2^5=3840だ。端数切り上げで3900点。
以上、麻雀の点数計算方法でした。
☆★☆:解説終了
で、何が言いたいかというと。
「はい、<岩石の矢>3900発プレゼント」
――ちゅどどどどどどどどどどどど…
氷狼は跡形もなく消し飛んだ。
「木っ端微塵で欠片も残ってないな…」
それなのにドロップ品――魔石と牙と尻尾――は綺麗に残っている不思議。
「このサイズの魔獣に3900発は多すぎたか。うーん、百分の一でいいか。三十九発なら死体も残るだろう」
迷宮なら構わないが、フィールドに出た後で困る筈だ。恐らく冒険者でもやらねばリディの元に帰り着けないだろう事くらいは想像出来た。
魔力の使いすぎとも思うが、あれだけ使っても次の敵に合う頃には満タンになっているのだから、【魔力適正】の酷さが分かろうという物である。
――――――――
迷宮サバイバルも七日目の午後となった。
出てくる氷狼が十六レベルになったが、それに合わせて発射する《岩石の矢》を三十九発から七十七発に繰り上げたら即死していたので問題はない。
別に三十九発のままでも即死なのだが、そこは拘りという物である。なぜ七十七発かと言えば、3900点の上が7700点だからである。
とは言え、食料が心許なくなってきた。元々七日分だったのを切り詰めているのだから当然と言えば当然だ。裏ステータスに気付いてからの進行速度は相当速いはずだが、そもそもこの迷宮の規模が分かっていないのが痛い。取りあえず、あと三日以内に外に出られるように頑張りたい。
「戦闘を盛り上げる気は無いからさ、済まんね氷狼君。<岩石の矢>77発」
――ちゅどどどどどど…
現れる氷狼には、問答無用で<岩石の矢>七十七発を撃ち込んだ。
――――――――
その後。
【万能】も進化した事だし、せっかくなので新たなスキルを獲得しようと思い立つ。
意識して行動すると、それだけでスキルが生える。最初は面白かったが、段々不気味になってきた。
新たに獲得したスキルは以下の通り。
レア:【鷹の目】、【神聖魔術】:<ヒール>、【マップ作成】
アンコモン:【魔術】:(火属性:<火勢の矢>)(水属性:<水流の矢>)(風属性:<疾風の矢>)、【暗視】、【気配察知】、【気配遮断】、【回避】、【隠形】、【魔力感知】、【不意打ち】
コモン:【聞き耳】、【忍び足】、【跳躍】、【潜伏】、【待ち伏せ】
迷宮の中なので、出来る事は限られていたが、それでもこれだけ獲得した。なんと言うか、色々酷い。
【鷹の目】は通路の先を凝らして見ていたら手に入った。【神聖魔術】はナイフで自分を軽く傷つけて<ヒール>を使ってみたら覚えた。ついでにPIEが十三以上ないと【神聖魔術】は覚えられない事を知った。【マップ作成】は紙や皮に描くのではなく、頭の中に構築するスキルだった。スキルを獲得する前のエリアまでカバーしている事に驚いた。
【魔術】系統は各属性で<魔術の矢>を撃ったら覚えた。【気配察知】と【気配遮断】はそのままだ。気配を感じ取ろうと集中したり、気配を消そうと努力したら覚えていた。【回避】は一体残した氷狼の攻撃を避けたら手に入り、【隠形】は気配を消したまま移動したら覚えた。【魔力感知】は気配ではなく、魔力で氷狼の位置を捉えようとしたら手に入った。
他に分かり辛いのは【潜伏】か。これは気配だけでなく、視覚的にも隠れる事で覚えた。【待ち伏せ】と【不意打ち】は【潜伏】したまま懐まで呼び込んだ氷狼を攻撃したら手に入った。【聞き耳】と【忍び足】は説明するまでもないだろう。
後は必要になったら覚えればいい。こうも簡単に覚えると、努力して覚えた人に申し訳ない気持ちになる。
――――――――
迷宮サバイバル八日目。
今まで見た事のない装飾の扉が目の前に現れた。
明らかに普通じゃない。恐らくボス部屋だろう。他に進める道はない。この扉を開けていくしか進む方法はない。
だけど扉は開かなかった。なにやら文字らしき物はあるのだが読めない。じっと見てみる。
《資格を示せ》
読めてしまった。ちらっとステータスを確認すると、やはりスキルが増えていた。【古代魔法語】――レアだ。物々しい。
そもそも資格と言われてもよく分からない。他の壁との違いは、文字の下が四角く区切られているくらいである。真也は、そこにそっと手を添えてみた。
――ゴゴゴゴゴ…
(これで開くのかよ)
――ウオオオオォォォォーン!
扉が開ききる前に中から遠吠えが聞こえた。それだけで結構な広さが窺える。そして、中にいるのは間違いなく魔獣――狼だ。
コイツは喜びに打ち震えている。今の遠吠えは心情の吐露だ。すぐに分かった。コイツは今こう言ったのだ。
『待ちわびたぞ。ついに使命を果たす、この時が来たか』と。
確認はしないが、きっと今頃は【狼語】あたりの言語を覚えているに違いない。
扉が開き切り中に入ると、そこには小山のように巨大な狼がいた。
『ここまで来て言葉は要るまい。裏勇者よ、我を超えて見せよ』
問答無用だ。
(仕方ないか、コイツは戦いたくてウズウズしているみたいだしな)
・魔獣王 魔狼フェンリル 50Lv
HP:12000
MP:750
STR:900
INT:375
VIT:1050
MEN:375
DEX:600
AGI:1200
スキル:【氷魔法】、【無属性魔法】:<身体強化>、【生命力強化】、【咆吼】、【爪牙】
破格だった。レベルも破格ならHPも破格。能力値は当然、スキルの質も数も破格だ。しかし、それ以上に気になる点がある。
(【氷魔法】に【無属性魔法】だと? 魔法とは何だ、魔術とは違うのか?)
《【魔法】:自らのイメージを世界に伝え、事象へと変換する技能》
(ならば魔術は、魔術とは何だ?)
《【魔術】:地脈に刻まれた魔法陣を起動する技法》
「は?」
(どういう事だ?)
『この期に及んで考え事とは余裕だな、裏勇者よ』
「うおっ!?」
――ブオン!
その破格のステータスに物を言わせ、一瞬で距離を詰めたフェンリルがその爪を振り下ろした。
「危ねえっ!」
辛うじて躱した。そう思ったが、違った。フェンリルは、ただ爪で殴ったのではない。【爪牙】というスキルを使っていたのだ。真也の身体は左肩から背中に掛けてザックリと抉られていた。
「【神聖魔術】<ヒール>!」
すぐさま<ヒール>をかけるが、傷が酷すぎて追いつかない。やむをえず、重ね掛けしようとするが、それを許すフェンリルではなかった。
――ウオオオォォォーン!
フェンリルの【咆吼】により、<ヒール>の魔法陣が砕かれる。
「魔術を無効化するスキルか!」
(ダメだ、魔術では奴に消される!)
打つ手がない。攻撃手段は<魔術の矢>しかないというのに、それが通じないのだ。
『どうした、もう終わりか? それはないだろう、裏勇者よ。我はこの時を1000年も待ち望んで来たのだぞ!』
「1000年!? 気が長すぎるだろう、幾ら何でも!」
『魔術ごとき小手先の技では我には通じぬぞ。せめて、これくらいはやって貰わねば!』
そう言うと、フェンリルの周囲に無数の氷柱が浮かんだ。
「これは……氷魔法か!」
次の瞬間、その無数の氷柱が真也に襲いかかる。
「ぐあっ!」
すぐさま回避行動を取るが、全てを躱す事は出来なかった。避けきれなかった氷柱が幾つも当たる。左足に至っては完全に突き刺さっている。動く事は出来そうになかった。元々AGIもDEXもフェンリルの方が圧倒的に上なのだ。更にこれでは勝負にもならない。
(なら、やるしかない。奴の氷魔法を模倣する!)
「働け、【万能】!」
(たった今、目の前で見せられたスキルだ。お前なら即座に代用してみせるだろう?)
『ふむ、我の魔法を真似しようとしているのか? 愚かなり裏勇者よ、見ただけで出来るならば誰も苦労などせぬ』
「煩せえ! それが【万能】持ちの特性だ!」
イメージしろ! 氷柱を作れ!
氷柱とは何だ?
氷だ。雪が溶けて雫になり、もう一度凍った物だ。
雫とは何だ?
水の事だ。
ならば水とは何だ?
H2O、即ち水素原子と酸素原子が二対一で結合した分子だ。
頭の中で答えを出した瞬間、周囲に水の塊が浮かんでいた。
『なんだと!?』
(フェンリルが驚いてやがる。ざまあみやがれ!)
次だ。
水が凍るとは何だ。
決まっている、水の温度が氷点下まで下がる事だ。
では、温度が下がるとは何だ。
原子核の周囲を回る電子が活動を止める事だ。
その瞬間――周囲には絶対零度の氷柱が浮かんでいた。
「覚えたぞ、氷魔法」
唖然とするフェンリル。
『まさか本当に我の魔法を真似するとは…』
「バカが、よく見ろ。俺の魔法の方が、完成度が高いだろうが」
恐らくはイメージの差。純水から絶対零度で作り出した氷柱は、フェンリルの作った物よりも、遙かに冷たく硬かった。
「だがまあ、褒めてやるよ。さすがに今回は俺もちょっと死ぬかと思った」
『ちょっと、だと!?』
「無敵モードは伊達じゃないって事さ。――さあ、採点だ」
真也は、スーっと息を吸うと一気に告げる。
「ラスボス故に親! 魔獣王に敬意を表して清一色相当とする! 故に6飜! 更にスキルが5つ! プラス5飜! バンバン抜きでも合計11飜だ! はははっ! 喜べ! 親の3倍満だ!」
『何だ、何を言っている…?』
人語を解するとは言え、さすがに異世界の魔獣に麻雀は通じなかった。だが、関係ない。
「36000点プレゼント」
いつの間にか数を増やした周囲の氷柱がフェンリルを襲う。
――ちゅどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど…
『オオオオオオォォォォォーン!』
それは自身を鼓舞するための遠吠えか。それとも諦めの断末魔か。これまでと違い、そこに明確な意思は込められていなかった。
『ぐうぅ…見事だ、裏勇者よ』
埃と冷気の煙が引けた時、そこには息も絶え絶えのフェンリルがいた。なんとフェンリルは、三万六千発もの<氷柱の矢>に耐えたのだ。
「はっ! はははっ! 耐えた! 耐えやがったぞ、コイツ! 凄えぞ、さすが魔獣の王!」
真也は新たな思考に入る。
それなら、もっと心を込めてやらねば。
氷の魔狼に氷の魔法は相性が悪すぎたのだろう。
ならば、次の魔法だ。属性はどうする?
氷、氷か。
そうだ。確か雷は空気中の微少な氷の粒の摩擦によって起こるはず。
それを再現すれば…
――ピリピリッ
思うが早いか、次の瞬間には真也の周囲が帯電を始めた。
だが想定した事象は起こらない。静電気が<矢>に変化しない。
――何故だ?
《MPが足りません》
――今すぐ増やせ。回復させろ。
《【MP増強】獲得。【MP回復力増加】獲得。【MP回復速度増加】獲得》
――パリッパリパリパリッ
次第に、帯電していた静電気が数多の<矢>へと変換されていく。
『そ、それは、何だ? それは、まさか…まさかぁっ!』
(その、まさかだ)
ニヤリと笑うと宣告した。
「<紫電の矢>36300発プレゼント」
『うわああああぁぁぁぁ!』
「安心しろ。ちゃんと連荘の分も加えておいたから」
――ちゅどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど…
煙が晴れた時、そこにフェンリルの姿は無く、ただ一振りの剣が床に突き刺さっていただけだった。
そして、その剣の脇には小さな子犬が蹲って震えていた。
真也は戦いにのめり込むとハイになります。