01-006 裏
迷宮サバイバル六日目。
氷狼が更に強くなった。出てくる奴のレベルが上がったのだ。
・氷狼 4Lv
HP:20
MP:5
STR:13
INT:4
VIT:10
MEN:4
DEX:9
AGI:16
「いやいやいや、無理無理無理。いきなり今までの2倍のレベルって、ないわ~。ほんと無理ゲーだろ、これ」
出てくるのが一体だけなら、それでもなんとかなりそうではある。<岩石の矢>を二発入れれば勝てる計算だ。だが複数出てきたら? それで詰みである。その場は凌げても、それが続けば終わりだ。
ちなみに真也のステータスはこうだ。
・万乗真也 1Lv
HP:11/11
MP:11/11
STR:10
INT:10
VIT:10
MEN:11
DEX:10
AGI:11
スキル:【万能】
称号:
罪科:
能力値で言えば、そこまで負けていない。トータルでは勝っている。これで平均だというのだから、人間とは結構強い種のようだ。
問題は、AGIで大きく劣っていると言う点だ。今後、弓は無駄になるかもしれない。真也のDEXでは当たらない可能性が出てきた。
(温存した意味がないな…)
何よりの問題は、先ほどから言っている通り、複数出てきた場合だ。一対一ならば、先に見つけさえすれば先手を取れる。だが、複数が相手となると、どうしても敵から攻撃されてしまう。先手を取れなくても同じだ。傷を受ける機会が増えてしまう。
だからと言って、先に進む以外の選択肢など初めからないのだが。
――ガコン
通路を一歩進んだところで背後からそんな音がした。振り返れば退路が塞がれている。
(ここで一方通行かよ!)
そして通路の先には四レベルの氷狼。当然、真也に気が付いている。
――タタッタタタッ
駆け出してきた。
「くそったれ! <岩石の矢>2発!」
――キャン!
予想通り、<岩石の矢>二発で倒す事が出来た。これで真也のMPは残り九。
武器と併用すればMPの消費は抑えられるが、真也の手にあるのは迷宮に不向きな弓と剥ぎ取りなどの軽作業に使うナイフだけ。
何と頼りない事か。だが、気落ちしている余裕は無かった。
――タタタッタタタッタタタッ
通路の先から二体の氷狼が走ってきたからだ。体格は一回り大きい。四レベルの奴だ。
「ナイフじゃ勝てる気がしないな」
行けるところまで<岩石の矢>を撃つしかない。
「<岩石の矢>4発」
――キャン! キャイン!
これも計算通り、一体に二発で倒せるらしい。できればこのまま休憩したいところだが。
――タタタッタタタッタタタッ
それを許してはくれないようだ。通路の奥から二体の氷狼。
――タタタッタタタッタタタッ
その奥に更に二体。計四体。
ここまでか。そう思いながらも詠唱を口にする。
「<岩石の矢>8発」
(案外、気絶ってしないもんなんだな)
そんな暢気な感想が頭に浮かぶ。
――タタタッタタタッタタタッ
「ああ、やってやるよ。最後の瞬間まで足掻いてやらあ」
奥から走ってくる氷狼八体に<岩石の矢>を撃ち込む。
「16発!」
倍々に増える氷狼と<岩石の矢>に、なんだか麻雀の点数計算みたいだなと、場違いな感想を持つ。そんな惚けた思考も、奥から走ってくる十六体の氷狼の前に霧散した。
――――――――
意識を取り戻した時、真也の目の前には大量の――それこそ数える気も起きないほどの――魔石と牙に尻尾が落ちていた。
「これ、俺が全部倒したってのか?」
あり得ない。真也のMPは十一しかないのだ。<岩石の矢>を十一発撃てばガス欠になる筈であった。しかし、それ以上の<矢>を撃った覚えが確かにある。
「どういう事なんだろうな――【自己鑑定】」
《【自己鑑定】:自分のステータスを確認できる》
[スキル大全]より抜粋。
・万乗真也 1Lv
HP:11/11
MP:1/11
STR:10
INT:10
VIT:10
MEN:11
DEX:10
AGI:11
スキル:コモン:【万能(偽)】
称号:
罪科:
MPの残りは一だった。上限も変わらず十一のままだ。訳が分からない。
(あれ? 今何か違和感があったような…)
もう一度自分のステータスを確認する。
(あった。何だろう、これ)
真也のスキル欄には、こう書かれていた。
スキル:コモン:【万能(偽)】
と。
――――――――
「うーん、気になる」
【万能】の後ろに付いた(偽)の文字。前に付いたコモンの文字も気になるが、まずはこっちだ。
とは言え、気にはなるがスキルの詳細を知る術はないのだ。しかも【万能】は、自分の持つ唯一のスキル故に、[スキル大全]を手にした際に真っ先に調べた。
そこには【万能】に種類などの記載は無かったのだ。派生も無ければ亜種もない。それが【万能】というスキルだった筈である。
「うーん、うーん」
だと言うのに、諦め悪く「うんうん」唸りながら真也は自分のステータスを眺めていた。
《【万能(偽)】:アンコモン以下のスキルを代用できる。但し、スキルレベルが5級以下に限られる。また、このスキルを持つ者は以後成長しないと同時に、ごく僅かに進化する機会が与えられる》
唸っていたら詳細が見えてしまった。何故かは分からない。
(まあ、いい。それよりも重要なのは、進化する機会が与えられるって部分だ)
つまり、【万能】持ちは、全く成長出来ない訳ではなく、成長する方法が一つしか無くなると言う事か。
「ああ、でも進化しても成長出来るとは限らないのか」
恨めしく自分のステータスを眺めていたら画像が微妙に変化した。
(え?)
・万乗真也 1Lv
HP:11/11
MP:11/11
STR:10
INT:10
VIT:10
MEN:11
DEX:10
AGI:11
PIE:13
LUK:100
スキル:コモン:【万能(偽)】
称号:
罪科:
気が付けば、能力値などの項目がいくつか増えている。
(PIEって何だ?)
《PIE:信仰心 隠しステータス》
疑問に思った瞬間、回答が頭に浮かんだ。隠しステータスという事は、見えてはいけないのではないだろうか。
(それにしたって、信仰心?)
心外であった。真也は神など信じていない。なのに、なぜ他の能力値よりも高いのか。しかし、その下には更に破格の数値があった。
(何だよ、LUKの100って?)
《LUK:幸運値 隠しステータス 数値は固定で一生変化しない 但し、スキルや加護の影響を受ける 100は最大値》
またしても瞬時に回答が頭に浮かぶ。
(また隠しステータスか。謎が多いな)
「ん?」
よく見るとステータスの表示がブレている。向こう側が透けて見えると言えば分かるだろうか。その向こう側を確認するように意識を集中すると――
・万乗真也 16Lv
HP:311/311
MP:342/3110
STR:280
INT:280
VIT:280
MEN:281
DEX:280
AGI:281
PIE:13
LUK:100
スキル
ユニーク:【森羅万象紐解く翠眼】
ウルトラレア:【万能(真)】
レア:【魔力適正】
アンコモン:【魔術】(地属性:<岩石の矢>)
コモン:
加護:運命神の寵愛
称号:神の寵愛を受けし者、裏勇者
罪科:
「なんだ、これは…」
スキルのランク分けが細かい。五段階もある。それとも上位と下位しかない[スキル大全]が大雑把すぎるのか。
(それにしても、16レベル? 何だ、これ、このステータスは…?)
《裏ステータス:ごく僅かな方法で得られる真なるステータス 【万能(偽)】の進化は、その内のひとつ》
またしても疑問の回答が即座に頭に浮かんだ。
(成長する方法が見付かるかもしれないと思ったら、もう済んでたよ!)
しかも、いつの間にか加護が付いている。
(寵愛って何だよ!)
運命神どころか、この世界に来てから神様に会った覚えがないのだ。いったい、いつ付いたと言うのか。
《運命神の寵愛:幸運値補正+100 及びスキル贈与:森羅万象紐解く翠眼》
(なるほど、この異常な幸運値はこれのせいか。メーターの針が振り切った状態なんだな。で、贈与されたスキルってのが…)
《【森羅万象紐解く翠眼】:その目にした、この世界のあらゆる事象を解析する》
さっきから疑問に思う度に答えが頭に浮かぶのは、どうやらこのスキルのせいらしい。
そして、このスキルのすぐ下に【万能】がある。進化した【万能(真)】はウルトラレアらしい。それだけ進化させるのが難しいと言う事か。
《【万能(真)】:あらゆる行為をペナルティなしで行う事が出来る また、行為に成功すると正規のスキルを獲得する機会が与えられる 現在の行為補正値+1》
(出たよ、チートスキル。【万能(偽)】のマイナス面が全て無くなっているどころか、持ち主に有利な事しかないじゃないか)
なるほど、ウルトラレアだ。それだけ獲得困難なスキルなのだろう。
《【万能(真)】:【万能(偽)】を進化させる事でしか入手出来ない》
この眼はスキルの獲得方法まで教えてくれるらしい。今更ではあるが。
「もういいや、次に行こう」
次はレアスキルの【魔力適正】である。
《【魔力適正】:魔力増加10倍、使用魔力1/10、魔力回復力10倍、魔力回復速度10倍》
(…これも酷い)
必要に駆られて【万能】から生えたであろう事は分かる。魔力増加十倍に使用魔力十分の一とは実質百倍という事だ。約三百の魔力が実質約三万になる。
「便利だけど、なんて言うか酷い。これは酷い」
他はアンコモンの【魔術】(地属性:<岩石の矢>)だが、これも【万能】から生えたのだろう。<岩石の矢>しかないのは、それしか使っていなかったからだ。
そして、一番初めの謎も解けた。足りないMPは裏ステータスから使っていたのだ。
――――――――
一つ疑問が残った。表ステータスのスキル欄にある【万能】は(偽)のままなのだ。
(もしかして、【万能(偽)】のせいで成長出来ないから、別のステータスを作って、そっちで成長させようって事なのか?)
しばらく待ったが脳内に回答はない。
「正解って事か。いい加減なシステムだな」
助かったのは嬉しいが、変な疲れが溜まった事は否めないのであった。