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放課後、俺は本屋にいた。
なんとなく、気まぐれで、特に目的も無く店内を歩き回る。
この時間帯、ちょうど俺と同じ様な考えで店内を歩く高校生は少なくない。たしかに真面目なごく一部の生徒は参考書コーナーに群がって有意義な時間を過ごしているのだが、俺のように勉強もせずせっせと時間つぶしをしている高校生がほとんどだ。きっと書店の店員さんたちは、「アホな学生どもがやってきた」と心の中で思ってるのだろう。なんだか負けた気分。
店内をグルグル回ってるうち気になる本を見つけた。
『女を落とすテクニック』
普段なら「こんな本誰が読むんだよ」と笑いながらスルーするのだが、今日の佐藤との会話を思い出して、手にとってしまったのだ。
誰も手に取ってないのだろう。折り目一つ無く、まったくもって人気の無い本。
でも……
俺は周りに人がいないことを確認してから硬い表紙を捲った。
ふむふむ。毎日鏡を見ようか……つまり現実を知れってことだな。
と、突然背後で声が。
「あの」
「はい!」
全身の細胞が一瞬にして石になる。
銃を突きつけられた悪党のようにゆっくり本を置き振り返る。すると、
「昨日はありがとうございました」
昨日の子。手には昨日渡した俺の傘。
「あ……や、やあ。」
声が裏返って、動揺が隠せない。
「傘、お返しします」
あぁ、そんなこといいのに。背後にある『女を落とすテクニック』がマグマのように熱い。こんなもの見てたなんてばれたくない。早くここから消えたい。
「わざわざありがとうね。じゃあ……」
足を出口に向ける。が、腕をつかまれて足が止まった。
「ど、どうしたの?」
俺は変な汗を流しながら彼女を見た。
だが彼女は『女を落とすテクニック』について話があるようじゃない。
「あの……」
しばらく言葉を詰まらせていたが、ようやく決意してこう切り出した。
「実は、お願いがあるんです」
いやー。骨休めに書いた小説が思わぬ高評価を貰って、昨日は小躍りどころかブレイクダンスしちゃいました。……嘘です。信じちゃった人、ごめんなさい。
さて、いよいよヒロインとの本格的な絡みが始まります。面白い作品になるよう全力を尽くそうと思うので温かい目で見守ってやってください。